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A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
by golden_bear
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卒業式: 一区切りのセレモニー

ついにこの日が来てしまいました。式典自体は昼2時からGreek TheaterというHaasから徒歩5分のところにある屋外公会堂、その後夕方4時半頃からUC Berkeleyの時計塔Sather Tower前の広場でレセプションが開催されました。

個人的には卒業式後に締切のある最終レポートが2つ残っていたため、全然卒業という感じではなく、当日も日韓東南アジア飲みの二日酔いに苦しみながら、昼12時までレポートを書いていました。その後、卒業式用ガウンと帽子(注1)を持って、友人の車に飛び乗る。Greek Theaterの裏山のCyclotron Rdという道に、1日$10の駐車場が仮設されており、集合時刻の1pm直前には既に満車でしたが、「まだ入れるよ」と満員電車のように詰め込まれ、無理やり駐車しました。この駐車場でガウンを装着し、会場に向かいます。
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卒業生は南門、家族等は北門に集合ということで、ここで一旦家族とはお別れ。
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チェックインの際に、「卒業証書受け取りの時にどう発音して欲しいか」も併せて紙に記入します。ガウンを着た生徒達と写真を撮ったり、最後の交流を楽しみます。
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予定通り2時に「威風堂々」のBGMがかかると、1列に並んで入場。
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この屋外の卒業式、例年死ぬほど暑いと言われていましたが、最近はこの時期にしてはとても寒い日々が続いていたので、むしろ寒い方が心配で着込んでいる方が多かったです。しかし、この時間に丁度日が照って来て、最高の卒業式日和に。妻は日焼けしてしまったそうで、日焼け対策は結局必要なようです。

最初は学長の挨拶
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次にゲスト・スピーカーとしてRichard Blum氏。1959年にここBerkeleyでMBAを取得し、Blum Capital Partnersという投資ファンドを1975年に創業。また、the American Himalayan Foundationの創設者でもある方です。18年前にも一度卒業スピーチをしたらしく、この間の世界の変化を踏まえたメッセージでした。
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次に、夜間・週末コースであるEWMBAの方に対する卒業証書授与式。金曜日ですが、1学年240人のほぼ全員が出席していました。最初に学長から「ほぼ皆さんシリコンバレーで働いていることから、5時に仕事を終わらせ1時間ドライブしてHaasに来て、6時から9時半まで授業を受けて、また1時間かけて帰宅する。こちらはフルタイムMBAと全く同じ基準の講義と評価を提供しており、この生活を3年間続けられて修了したあなた方の努力は信じられない」、といった紹介があった後、成績最優秀者の表彰。GPA(注2)が3.95というとんでもない成績をたたき出したのは、eBayのエンジニアの方でした。

続いてのEWMBA学生代表からのスピーチが、とても感動的でした。授業中に教授やクラスメートから受けた印象的な学びやエピソードを話したあと、「3年間、本当に夜間も休日も全て潰してMBAを取得できたのは、教授とスタッフの方々、そして、家族と子供達はじめこの決断を許して支えてくださった人々のおかげです」と言うや否や、全員起立し、参観した家族に全員で感謝の気持ちを述べ、大いに盛り上がりました。
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そして、1人1人に仮の卒業証書が手渡しされます。この時、小学生くらいまでの子供を一緒に壇上に上げて、卒業証書を一緒に受取っている方が2人に1人くらいいました。まさに、家族や子供と2人3脚で3年かけて取得したMBA、という気持ちがひしひしと伝わってきました。
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いよいよ、我々フルタイムMBAの授与式です。まず最初に成績最優秀者。こちらもGPAが3.92というこれまた素晴らしいスコア。彼女はロシアでインターンをして、2年生の時には日本語を勉強し、卒業後はオーストラリアで働く、という、とても国際派な方です。
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次に、成績以外でのHaasへの貢献の意味で素晴らしい活躍をした4名が表彰されました。うち2人はHaasの生徒募集プロセスにて国際的に貢献した方、1人は国際的なビジネスプランコンペで複数入賞している方、そして1人はチャリティーでリーダーシップを取った方達。
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そして、学生代表のスピーチ。3月ごろ、スピーチの候補者が自薦&他薦で選ばれ、生徒全員による予選投票と決選投票で選ばれたのは、カナダ人のS君。授業中から彼の発言は常にほぼ100%の確率で誰もが思いつかない視点。うち3回に2回くらいはジョーク、3回に1回くらいは本質をえぐる発言をしていたので、「最も人と違う」という視点ではとても妥当な選出でした。「何故俺がこんな場所で喋らなきゃいけないのか、未だに理解不能だ」という冒頭に始まり、全編シニカルなブラックジョークだらけで笑いが耐えない、記憶に残るスピーチでした。
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ようやく卒業証書の授与です。EWMBAの真似をして子供を連れて行く人が多かったのですが、EWMBAの方々より平均年齢が低い分、乳幼児が多い。写真には撮れませんでしたが、中には生後1.5ヶ月の赤ちゃんを連れて行く人までいました。
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私は捻挫をしていたため、プロテクターをつけて足を引き摺って入場。記念に残る瞬間です。
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最後に、EWMBAとFTMBAそれぞれで、最もボランティア活動に費やした時間が長かった人々が1人ずつ表彰されて、閉会となりました。これらの方含め、本日壇上で表彰される方々はプロフィールが紹介されたのですが、米国人以外が大半。米国人でも今後海外で働く方が殆どであることに、とても驚きました。

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卒業式終了後は、Sather Tower前の広場でレセプション。
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もう翌日から旅行に出たり翌週からフルタイムの仕事が始まる人もいて、ここで会うのが最後、という方も多いことに気付き、ようやく卒業したんだなあ、という気分になりました。ありったけの友人達を見つけては、一緒に写真をとり、別れを惜しみます。(下記は日本人同期にて)
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大学のイベントとしてはこれにて終了。両親や親戚の方が出席されていることも多いので、夜は家族でディナーを取る人が多い模様。私も妻と、Rocklidgeといううちから車で20分の街にあるイタリアン、Oliveto Cafe & Restaurantに行く。すると、少なくとも2組のクラスメートのご家族がディナーを取っていました。ここにて、ようやく2人で卒業の祝杯を挙げ、落ち着いて美味しい料理を堪能しました。
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こうして無事、卒業式が終わりました。この後は、最終課題、残っている人達で送別会、旅行、引越し、次の仕事に向けた準備と、社会復帰への道が着々と進んでいます。これらで見て面白いと思ったこと、及び、まだ書ききれていなかったことの掲載のため、このブログはもう少しだけ続きます。


(注1) 卒業式のガウンや帽子は、4月1日頃から大学生協で販売されるものを購入します。最も基本的なセットで$62程度、いろいろアクセサリーをつけると、$70~100程度になるようです。

(注2) GPA = Grade Point Average、つまり成績の平均点。A+とAが4.0、A-が3.7、B+が3.3、Bが3、B-が2.7、C+が2.3、Cが2点として、単位数で加重平均を取ったもの。Haasの場合、相対評価で平均がB+となっている。しかし分布はBやB-に比べてややAやA-が多いと思われる(全ての評価項目で満点ならAかA+とならざるを得ない)ため、GPAの平均は3.3~3.5程度と予想される。また、卒業要件はGPA3.0以上。
# by golden_bear | 2010-05-14 22:53 | 学校のイベント

卒業直前(Dis-O-Week)のイベントと捻挫

既にラスベガス・トリップやTalent Showの話は書きましたが、その他の卒業式前のイベントも併せて紹介します。ちなみに、授業自体の最終日が5月10日、卒業式が5月14日、そして、期末試験やレポート等は5月20日までの間のどこかで実施されることになっています。

4/30(金) LAHBA Consumption Function
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LAHBAとは、Latin American & Hispanic Business Associationの略。つまり、スペイン&ポルトガル語圏の人々(両国+中南米全体)のクラブを指します。ちなみに、このような地域系のクラブとしては、私の居るPacific Rim Club(環太平洋地域)や、Black BusinessStudents Association(アフリカ), European Business Club, Jewish Business Club, South Asian Business Associationなどがあり、大体各クラブ年に1回校舎で無料の飲み会を主催します。
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ラスベガス・トリップと被っていたので、大半は1年生でしたが、私のように土曜朝出発やラスベガスに行かない2年生も参加していました。
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スペインのテーブルでは、大ナベでパエリアを調理。美味。
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このラテン系の人々とは、今までJapan Trekに来た方や1年生春学期に強制的にチームを組まされた人々以外、あまり接点が無かったので、今更ながら新しい世界を見た印象です。まさに人生の楽しみ方を知っている人々のお祭り、という感じで、独特の雰囲気で盛り上がっていました。
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5/7(金) Cohort Olympics
いよいよ卒業式1週間前で、Disorientation Weekと呼ばれる1週間の始まり。ちなみにこのDis-O-Weekは、入学時のOrientation Weekと違い、全て有志の学生が企画運営していて、大学からのサポートは数万円のクラブ運営費を頂いているのみ。リーダー格のT君はじめ、幹事の方々(含む1年生ボランティア)には、本当に頭が下がります。

内容は、オリエンテーション4日目 - ボランティアと大運動会の記事に書いた同じ場所で同じように、1年生秋学期のクラス対抗で様々な競技を競います。ちなみに、1年生の時と違い必修イベントではないので、参加者は全学生の7割くらいでした。
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何故かバスの中から一気飲み大会が始まり、到着時にはビールを3杯飲み終わる状況。一緒にバーベキューをした後、各競技に散らばります。写真が消えてしまってないのが残念ですが、全員元の4クラスの色別T-シャツを着ています。こうして卒業前に改めて見渡すと、1年生春学期以降はあまりクラス関係なくチームメイトや友人が増えていったんだなあ、と判ります。だからこそ、このイベントでまたクラスで集まるのは、とても懐かしい瞬間でした。

私自身はバレーボールをするつもりだったのですが、何故かバレーボールが競技から無くなり、代わりにサッカーをすることに。酔っ払っていたのと年をとったのとで、あまり調子が上がらないなあ、と思っていたら、なんとピクニック場のデコボコした芝に足を取られて、思いっきり捻挫してしまいました。

隣のチームに昔家庭医として数年働いていた人がいたので、すぐその場で診察してもらいました。足首とかかとの様々な場所を指で押された結果、「どうやら骨は折れていないみたいだから、ただの捻挫。冷やして足を心臓より上に上げておくと良いよ」、とアドバイスを頂きました。ちなみに彼女は普通のMBA学生なのですが、3児の母(3人目は在学中に生まれる)、かつ、昨年夏からHaasの1学年上の先輩と医療機関向けSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)アプリケーションで起業中(しかもこのサッカーでも活躍)、という凄い人。この起業に関しては、秋から冬にかけてはあまりうまく行かず、諦めて解散しようとしていたそうですが、最近顧客がついてビジネスが順調に回りだしたとのこと。今後の大活躍に期待したいと思います。

その後、普通の病院は閉まっている時間でしたので、車で早退する人に家まで送ってもらいました。同乗した2人とは初めて話したのですが、2人ともエネルギー関係の仕事に就くそうで、1人は地元の電力&ガス会社でスマートグリッド関係の仕事、もう1人はスタートアップでスマートグリッドのアプリケーションの1つを開発しています。私のインターン先の仕事とも相当絡んでいたので、「お互いもっと早くから知って話してたら、違った展開になってたかもねえ」という話になりました。

家に帰ると、妻には「年を考えなさい!」と怒られつつ、薬局で氷嚢を買ってきてもらう。このタイプは日本ではあまり見かけないですが、便利です。
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以後、日曜の夕方まではずっと、寝っころがって足を上に上げて、冷やし続ける生活に。目白押しのレポートや宿題をやる気すらなくなることに。

5/8(土) Sonoma Wine-bus tour
この日はワイナリー訪問イベント。朝9時から60人乗りのバスでワイナリーを3軒+ピクニック、というイベントに妻と一緒に行く予定でした。しかし、私は捻挫の腫れが酷く、当然行けません。そこで代わりに、同じくサッカーで足を激しく打って動けない韓国人(ラスベガスに一緒に行った人)の奥様に、妻と一緒に行ってもらうことになりました。とっても楽しんだそうですが、現地で「2人ともどこまで馬鹿なんだか」という話になったことは、言うまでもありません。

5/9(日) Year End Gala Party
昼はうちから車で2分の所にあるGolden Gate Firldsという競馬場へレースを見に行くイベントや、インド料理を食べに行くイベントがあったのですが、捻挫につきキャンセル。しかし、夜にはYear End Gala Partyという、同級生や教授などフルタイムMBAコースに関わる全ての人が集まる大パーティーがあるので、それにだけ頑張って参加することにしました。
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場所は、San Francisco Design Centerというパーティー会場。この日は全員正装ですので、恐らく昼にリムジンでナパのワイナリーツアーに行ってそのまま登場するグループもありました。
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写真はまだ7pm頃の明るい時間帯ですが、このような綺麗な会場に、全部で300人ほどが集まったそうです。
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もちろん大多数は2年生とその家族や恋人達。ここぞとばかりに、色々な方と写真を取りまくる。帰りは11-12pmにバスが数台手配されていて、バスの時間まで存分に最後のパーティーを楽しみました。
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5/10(月) 病院へ
本当はこの日はトランポリン・ドッジボール(!)というイベントがあったのですが、そんなのできるわけ無い。したがって、この日は朝から大学附属の保健所、Tang Centerへ。ちょうど1年前にザンビアに行く予防注射をしに行って以来、1年ぶりです。

"Urgent Care"と書かれたコーナーに行くと、すぐに見てもらえました。怪我をした3日前と同様に、まずは触診でかかとの色々な部分を触られ、「骨には異常なさそうだけど、念のためレントゲンを取りましょう」とのこと。すると、車椅子が出てきて、以後病院内の移動は車椅子で運ばれることになりました。生まれてはじめての体験です。

X線の部屋は別部門に分かれているので、そこまで運ばれた後、順番待ち。終わると今度は、外科のコーナーに運ばれます。ここで面白かったのは、部署をまたがる際に、私のカルテが壁の掲示板ポケットに入れられると、すぐに隣の部門の人がカルテを確認しに来て、私を適切な部門に運びます。要は、病院内の移動に、トヨタのカンバン方式が使われているのです。

最終的な外科医の方の診療結果は、「著しい捻挫で、全治4-6週間。ただ、骨にも靭帯にも全く損傷が無いから、すぐにリハビリは始められる」。そして、詳細なリハビリ方法の書かれた表裏両面の1枚紙
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リハビリ用のゴム
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そして、移動用のプロテクターを貰いました。
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費用は保険が利くので、これら全部合わせて税込み5千円程度でした。また、このリハビリ用の紙には「何が何回ずつできるようになったら、全治とみなす」と具体的な基準が示されていて、とても良いシステムだと思いました。

5/11(火) Amazing Race
昼から同名のテレビ番組と同じゲームを実施(サンフランシスコの8地点を4人組で訪問。目標地点に到着するごとに、幹事から指示をメールで受けて、その写真を撮って送り、次の地点の指示を受ける)し、最終ゴールのバーで夜に飲み会。この日までに全てのテストとレポートが終わった人は参加していたようでしたが、私はこの日からテストやレポートが相次いだため、参加できず。

5/12(水) Mojito Party
全身白尽くめの衣装を着て、カクテル"モヒート"を飲みまくる、1年で最も泥酔して記憶を飛ばす人が多いパーティー。残念ながら行けませんでしたが、50名ほどの参加者は、明け方まで相当盛り上がったようです。

5/13(木) Final Consumption Functionと日韓東南アジア飲み
卒業式前日。卒業式には両親や家族の方が参加するケースが多いので、最後の学校主催の無料パーティーは、2年生限定で家族の参加もOKという形で開催されました。場所も、いつもの校舎から2-3分はなれた、キャンパス内の綺麗な芝生で行われました。
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アフリカやインドから十数人も大挙して訪れる方々などもいて、驚きます。今までお世話になった同級生のご家族の方に感謝の挨拶ができることはもちろん、ご家族の方でも日本相手にビジネスをされている方などが積極的に話しかけてきて、とても話が弾み、面白かったです。

そして、最後の日韓東南アジア飲み。実はこの日は朝からHalf moon bayというとても綺麗なゴルフコースで、このメンバーで最後のゴルフコンペが開かれていました。私は捻挫のせいで残念ながら行けなかったのですが、代わりに韓国人とタイ人のお父様が参加されていたようです。その夜に、例によって成績発表も含めた飲み会が、学生向けの韓国料理屋にて開かれました。最後の最後ということもあり、皆気が狂ったように激しく飲む。この仲間との交流は一生続くことでしょう。
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# by golden_bear | 2010-05-13 18:35 | 学校のイベント

最終講義のメッセージ集

ビジネススクールの最終講義というと、「ハーバードからの贈り物」という本が出版されているように、これからビジネスの世界に巣立っていく学生に対して、何らかのメッセージを残す方が多いようです。Haasにおいても、この本の逸話のように、最後30分授業を停めて語り出すような教授もいらっしゃいます。しかし、毎回教授ご自身の人生に基づく人生訓が話される、という感じではなく、各教授の個性に合わせた多様な締めくくりを目にしている印象があります。

今回卒業するに当たり、最終学期の最後まで続いた4つの授業の終わり方は、それぞれ個性的で印象的でした。まだ個別に説明していない2つの授業については雑感も交えて、記してみます。

(1) H.Chesbrough教授 "Managing Innovation and Change"
やはりHarvard出身だけあって、最後30分は講義全体のまとめ、及び、学生へのメッセージ、という形の独演会。今年の学生への主要メッセージは、下記2点でした。

○ 貴方の将来のキャリアの選び方:
 こんな時代だからか、今年は様々な学生が私の所に就職先の相談に来た。まず伝えたいことは、「ここバークレーで身に着けたことを活かす」事を判断軸の第一歩に持ってくること。これは、どの業界のどの企業を志望したいか、という調査段階から、実際の面接プロセス、さらにキャリアの持続の全てに関わる。既にあなた方はここバークレーの場で、無限の選択肢の中から、あなた自身が何が人生の幸せかを考え、バークレーにどんな機会があったかを見て、2年間の過ごし方を選びとってここまできている。次の戦略はこの2年間の中から連続的に生まれるのである。

 残念なことに、多くの学生は、長期的にはY(例:ある特定分野での起業)をやりたいのに、短期的には直接関係ないX(例:コンサルティング業界)を選んでしまう。皆、様々な要因や考えを持って決断しているが、いつも抜けているのは、一旦Xに行ってしまうとそこでスタックしてしまい一生Yに行けなくなるという意味のリスクの視点、及び、今しかない、という切迫感。人生で成功している人をよく観察すると、Xに寄り道などせず、一直線にYを目指していることが多い。

○ オープンイノベーションの貴方への意味合い
 あなた自身が全ての賢いアイデアを持つ必要は無く、あなた自身のネットワークを形成すること。ネットワークの先端では、常に新しいアイデアに対してオープンであること。ネットワーク内部の透明性と信頼性を高めること。

 自分自身のビジネスモデル(どう価値を創造し自分に還元するか)を理解すること。そして、上司・顧客・パートナー・敵を含む、他人のビジネスモデルとのフィットを、常に確認すること。

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この後彼自身のキャリアを振り返り、最後に「ほとんどのイノベーションは生き残りませんが、イノベーションを起こさない企業も生き残りません。是非将来、貴方自身の人生の前進と、貴方自身のイノベーションを、私に聞かせていただける日を楽しみにしています」という締めくくりに、言うまでも無く大きな拍手がおきました。


(2) S. Udpa教授 "Managerial Accounting"
未紹介の授業なので、先に寸評を。管理会計の授業ですが、ルールや計算手法といったテクニカルな知識は、毎週出される宿題内で理解する前提。授業内では8割方、社内のコストや利益の配賦ルールが、各部門や個人にどのようなインセンティブとモチベーションを与えるか、という組織行動論のような議論をしていました。

印象としては、Udpa先生が授業中ずっと冗談ばっかり言っているのが面白い、という点は、皆共通しています。が、授業全体の評価は良い・悪い、と半々くらいではっきり分かれていると思います。

私にとっては、大変良い授業でした。下記の点で、少なくとも過去の自分の疑問が解決されており、それは将来の自分にも必ず良い影響があると思われるからです。
○ 宿題やチームワークで自分の手を動かしたことで、細かい会計知識は別として、大枠の理論とその背景を一通り身につけることができた
○ 大企業が異なる部門のインセンティブを揃える手法、及び、それが如何に大変かを知る。ITコンサルティングや会計コンサルティングといった職業が何をしているか、がよく見えた
○ 幾つかの細かいルールについては、知った瞬間に、昔の何人かのお客さんの顔が浮かんだ。全社一丸の施策だろうが何だろうが、現場が思うように動かない理由を、新たな視点で見れるようになった
○ 管理会計が財務会計やファイナンス理論とどう結びついているのか、という観点を踏まえて、ABCのような原価計算手法、EVAのような経営管理手法が、何故優れているのか。優れているにも関わらず、運用にあたって何故問題が発生するのか、チームで数字を動かしながら定量的にも定性的にも理解できた。

特に最後の点、EVAの定義については、前学期のCorporate Financeの授業で、「(理論上は)株主価値を最大化することは株主と経営者の両者に平等ににプラスになる」、という"株主"対"経営者"の視点で語られていたことが、今度は「(理論上は)各部門の従業員にEVAを適用し正しく運用すれば、その総和による従業員の目的意識のベクトルが株主価値の最大化と等しくなる」、という、"従業員&部門"対"株主&経営者"の視点でリンクしたことは、凄く美しいと思いました。そして、EVAの問題点の議論においても、また、講義全体を通しても、9割方はとことん理詰めで金銭インセンティブの視点から考え尽くしながら、残り1割に「人間お金だけで全ては決まらない」という視点をさりげなく付け加える、バランスの取り方も見事と思いました。

一方、悪い、という評価をする人の意見も納得です。恐らくその一番の理由は、「わかったし面白かったけど、仕事戻った時に何が身についたか不明」。仮にこの授業を完全に理解し、仕事に戻って自社の問題点を発見したとしても、自力で解決できない場合が多いと思われるためです。同様の印象を受ける組織行動論のように、これも数年後に講義内容を見返して、はじめて意味がある内容なのかもしれません。

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さて、2時間の最終講義ですが、前半がその前週に4-5人のチーム毎に行った部門間対立のネゴシエーション・ロールプレイの結果発表と学び、後半がBalanced Scorecardの説明でした。もともと前半後半各1時間の予定でしたが、喋り好きのUdpa先生と学生との間で議論がヒートアップし、前半に1時間45分費やしてしまいました。よって、Balanced Scorecardの説明を15分バージョンで無理やり詰め込み、最後の言葉どころではない、というバタバタの終わり方になりました。

こうなることを予知していたのか、教授の最後のメッセージは、この15分のBalanced Scorecard講義資料最後の例題そのものになりました。それは、「Haas School of Businessの目標を、それぞれどのくらい達成されているかを示す、指標(メトリクス)群と各々の評価体系を、設計してみてください」というもの。

例えばもし、大学の目標が、「女子学生を全体の4割にする」といった立て方であれば、達成基準も打ち手も明確です。しかし、Haasの目標は、次の4つ(カッコ内は説明文も踏まえた私の意訳)
* Question the Status Quo:(現状に甘んじるな)
* Confidence without Attitude:(態度/傲慢さを出さない自信を持て)
* Students Always:(常に学生の姿勢で謙虚に学び続けろ)
* Beyond Yourself:(長期の視点で行動を評価し、今の自分を超えた興味を我々の上に設定しろ)

彼からの最終メッセージは、「この4つの達成具合を評価する指標群など、当然、一朝一夕に設定できるものではありません。あなた方も、このHaasの4つの目標、及び、Haasで得た学びを踏まえて、自分自身の人生の目標に対して自分で指標を立て、評価し、実現できるように、是非今後の人生を頑張って生きてください。」個人的にはとても好きな終わり方です。


(3) M.Nondorf教授 "Corporate Financial Reporting"
これも未紹介なので、先に寸評を書きます。日本の「有価証券報告書」に相当する、米国の10-K、および、10-QやS-1などのSEC(証券取引委員会)提出資料に、何をどう報告するかの最新ルールの説明、及び、各企業の提出資料が実際にそのルールを満たしているかどうかを確認する授業でした。すなわち、会計監査のお仕事入門、を、経営者の視点で重要な順に優先順位付けして紹介していました。

個人的には、講義内容=合計1,000ページにも及ぶ判りやすい配布資料、には、大変満足しています。最初1ヶ月は収益認識に絞って損益報告書内で虚偽記載がどのように起こるかを徹底議論。次の2ヶ月半に、M&A、法人税、オフバランスシート会計、リース会計、企業年金/退職給付会計、会社更生法と破産法、外貨取引/外貨換算、デリバティブとヘッジ会計、ストックオプション他株式報酬、という、まさに今まで字面だけ見た事はあっても、裏で実際に何が起こっているのかわからなかった内容を、教わることができました。

しかし、授業自体は、他の授業と比べると、面白くないものでした。そもそもこのテーマを面白く語ること自体難しいと思いますが、教授の説明が、まるで裁判官が判決を説明するかのように、一言一言綺麗な発音で事実を判りやすく正確に伝えるスタイル。私のような初学者留学生にとっては、聞き取りやすく有難いのですが、7-8割は配布資料と同内容で、退屈で眠いことこの上ない。しかし、ボーっとしていると2-3割の重要な議論についていけない。そして、CPAを持っている学生が質問し、教授が1対1で答え始めると、もはやちんぷんかんぷん。

さらに、授業以外の課題も、上で述べた管理会計の授業のような毎週の宿題も無く、4ヶ月間で計3回しかないチーム課題は、分担すると1人あたりの作業量は多くない。こうして良くも悪くも負荷が軽いため、結局最後に身についたのは、膨大な書類の目次:問題点の一覧と解法の所在程度。実務で使えるレベルのスキルは、やはり手を動かさないと身につかないようです、、、

と思っていたら、このようにサボっていたツケが一気に最終課題で来ました。課題内容は、「自分自身で1社企業を選び、その財務報告書(上場企業なら10-K,非上場企業は要相談)の内容を分析せよ。授業で習った知識を総動員し、どこに虚偽記載の可能性があるか、一般的でない事項はどう処理されており、それは良いのかどうか、本文7ページ+添付資料にまとめること」。サンプル答案を4種類見ると、7ページとはいっても、まるで昔の新聞か、というくらい細かい字で、ぎっしり5,000語以上詰まっています。

私のテーマは、昨年IPOをして今年に入って初の10-Kが出たばかりの、元ベンチャー企業。ベンチャーながら既に世界中に拠点を持ち、M&Aやリース等何でもありで成長し、この大不況の中無理やりIPOにこぎつけた感がある。実際、10-Kだけで260ページあり、なにやら怪しそうな数字とその言い訳(?)が一杯並んでいます。教授も、「この企業はとっても面白そうだから、頑張ってね!」と、やたら発破をかけてきて、もう逃げられません。

やってみてすぐ気付いたのは、そりゃ、株式公開直後のベンチャーとはいえ、キチンと監査役や主幹事証券の審査を経て上場していますので、怪しいところを見抜け、って言っても、とってもつらい。そもそも2年生秋学期後半&春学期前半 授業振り返りに書いたとおり、Financial Information Analysisの授業で「復習してみても、会計スキルのところは良く判らなかった」から、キャリアチェンジャーの最終学期考(前編):興味の無いものこそやるの回で、「スキルもやる気も無いが必要」と考えて取ったものの、授業つまんないなあ、と思っていた私には、大変荷が重い課題でした。

しかも、締め切りが卒業式の5日後に設定されていて、卒業式後は延々とこのレポートに取り組むことに。実は書かないで不可を取っても卒業できるはずなので、途中辞めたくなる衝動に何度も駆られる。しかし、授業やサンプル答案で見たような分析を自分なりにアレンジし、売上、変動費、研究開発費、在庫、設備投資、リース、ストックオプションなど、幾つかの点の怪しさとその根拠、及び次に何を注意すべきかについて、どうにか書き切った時の感動は、一入でした。

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こんな実務よりの授業なので、最終講義に人生訓を垂れるようなことは一切ない、、、と思っていたら、突然、下記の強いメッセージを頂いたことには、とても考えさせられました。

「今まで見てきたように、どんな会計報告にも多数の問題点が潜んでいますが、その多くの原因は、CEO及び従業員に対するボーナスです。そして、取締役会は、ある特定の経営幹部や従業員の行動、会社組織の変更、法律の解釈などから発生する、これら会計報告の問題に常にさらされて逃れられません。あなた方が将来どんな事業をするにしても、お金の力で本来あるべき姿を捻じ曲げてしまわないように、心から願います。」


(4) A.Mian教授 "International Finance"
個人的に最も衝撃を受けたオオトリは、やはりこの授業。前々から「最終講義は金融危機について語る」と予告していましたが、最終講義の5日前に突然、合計80ページにもなる論文4件(うち2件は彼自身の論文)が配布され、「授業前にこれを読んどいて」という指示。あまり時間も無く、これらを流し読みをして授業に臨むと、さらに当日講義用の分厚い配布資料(パワーポイント本編45ページ)が追加で配られる。

冒頭でこれまで14回の授業で何が肝かを振り返り、次に「概念的な学び」として、下記3点を主張。
1. 全ての問題解決に経済学的な考え方を働かせろ
2. 全てのツールには、適用範囲に限界があることを理解しろ
3. 貴方の思考をマクロの文脈に当てはめろ
1.と2.には、過去の授業の様々なエピソードを当てはめてまとめましたが、3.については本日補足する、という形で、以後金融危機のマクロトレンドの話が延々と続きました。

最初に、歴史の振り返り。1994年から2002年までの8年間に、メキシコ&アルゼンチン('94-95)、アジア金融危機('97-98)、ロシア発南米危機('98-'01)、そしてトルコやウルグアイも含む、様々な金融危機が各国を襲っている。「これらは個別単独の危機なのか、相互に関連しているのか」、という問いを元に、各々の危機の状況を紐解いていく。

次にこれら個別の状況を元に、「投機的資本(≒バブル)は、何故発生し(防げない)、崩壊するとどのように危機が発生し、その危機がどう世界中を駆け巡り、それは何故か(防げない)」、という話の議論を展開させていきました。端的にその結論を書くと、「法体系に不備のある発展途上国に投機資金が流入し、それにかまけて対外債務が自国の収支を大きく上回ると、バブルの資金が一斉に引き上げられ、資産価値の崩壊が始まる。その補填/損切りや安全資金確保のプロセスで、金融危機は飛び火する」、というまとめです。そして、これらの危機を踏まえ、発展途上国が法律/システムを整備し、2002年以降大きな危機が防がれてきた、という解釈がなされました。

ここまでは状況整理の議論が淡々と続きましたが、ここからがあっ!と驚く展開に。突然、「今度は米国が発展途上国になってしまった」、というスライドが登場。実は米国のサブプライム問題(住宅バブル)は、1994年のメキシコ、1997年のタイと状況がそっくり。そして、米国の歴史上はじめて住宅ローンの成長率と世帯収入の成長率の相関が負になり、バブルが崩壊し、リーマンショックが発生したのは周知の通りです。

話はここで終わりません。2008-9年の不況は、カリフォルニアやニューヨークのように消費性向が高く富裕層が借金しまくっている州で悲惨な結果となったが、実はテキサスのような内陸の消費性向・借金共に低い州では、あまり不況になっていない、というデータが十ページも出てきます。つまりサブプライムとリーマンショックは、米国のごく一部の問題に蓋をしただけ。実は、本質的な問題解決にはまだ到底至っていない。

そして、現在の欧州危機に話が移ります。これは、上記米国のような国内一部の問題ではなく、国全体/欧州全体の問題。すなわち、欧州も10年前の発展途上国と同じであり、この問題は必ず飛び火する。そして、「その飛び火先こそ、異常なほど対外債務を積み上げすぎている米国になるはずだ」。すなわち、「リーマンショックの比ではない本当の金融危機は、これからである、と覚悟しておいた方が良い」が、最終講義の学生へのメッセージなのでした。

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もちろん、この教授も100%断言しておらず「覚悟した方が良い」というメッセージなのですが、パキスタン人が断定調で言うものですから、当然、学生からは悲鳴にも等しい激しい議論が飛び交いました。私自身も「じゃあ、それを救えるのは中国なのか」という論調で議論に参加するや、今度は中国自体の問題にも議論が飛び火し、もはや収拾不可能な状況に。時間切れで、コース評価も曖昧なまま、とりあえず全体写真を。
最終講義のメッセージ集_c0174160_15153618.jpg
写真を見ると、米国人が2人しか居ない少人数授業だからこそ、このアンチ米国の面白い議論が成り立ったのだろう、と、改めて実感します。

そして、丁度この授業の翌日(米国時間5月6日)、ギリシャ危機の影響と誤発注(?)問題が絡んで、突然ダウ平均株価が一時$1,000下がり、為替も1ドル94円から88円に急落したときには、寒気が体をよぎりました。その翌週に、EUROに対するIMFの緊急融資が発動、と、ますます目が離せません。いずれにしましても、これが最も印象に残った最終授業であることは、間違いありません。
# by golden_bear | 2010-05-12 22:27 | 学業

International Finance 授業からの学び

この授業は人気がなく、7人しか受講しなかったのですが、私にとっては、全然知らなかった世界があることを新たに知ったという意味では、2年間に教室で受けた授業で一番驚きと学びの多かった授業です。文章で伝えるのは難しいですが、紹介してみます。

まず講義内容ですが、「国際金融は国際でない場合と計算式上で何が異なるか、リスクはどのように分類され、それぞれ収益予測と割引率にどのように効いてくるか、それらリスクはどうヘッジできるか、そのヘッジを含めて投資を実現し実際にリターンを得るために、マネージャーとしてどう動くべきか」。加えて、タックスヘブンなど国際金融を学ぶ上で避けて通れないテーマを包括的に含んでいます。

教授はパキスタン人で、昨年までシカゴ大で教えていましたが、今年から「金融と社会の接点部分をより深めて研究したい」という理由で、バークレーに移ってきた方。授業は全14回で、下記の流れに沿っています。
- 第1-3回: 講義形式(第3回のみケースも有)。Corporate Financeの考え方が、Internationalになった場合に、何がどう変わるかという理論
- 第4-5回: ケース集(1) 第1~3回の理論を用いたケース
- 第6回:中間試験。MBAにしては珍しくノート等の持込が一切禁止。
- 第7回:講義形式: リスクとリスクヘッジの方法
- 第8-10回: ケース集(2) 国際プロジェクトファイナンスと通貨ヘッジのケース
- 第11-13回: ケース集(3) 最先端の金融理論の適用例
- 第14回: ケース集(4) タックスヘブン
- 第15回: 最終講義: 金融危機の分析と今後
- 最終講義後の週末に、持ち帰りの最終試験。1週間期限で、1つの膨大なケースが課題。

負荷はかなり重い。中間と期末に試験があることに加え、毎週のケースでは、10ページ程度の読み物+エクセル10シート分程度のデータを元に、2-3人のチームで5-10問程度の課題をレポートにまとめて提出。この課題、最初2-3題だけでも、昨年秋学期までのファイナンス系授業の知識を総動員し、M&Aのバリュエーションを普通に1つやり切る程度の負荷。ここまでで大抵5時間くらいかかるのですが、これに加えて、普通にやったら必ず落とし穴に嵌るケースばかり選ばれていることが特色。課題の後半部分は、普通に解けない問題をどう対処するか、という内容になってくるのです。途中、モンテカルロシミュレーションを回さないと解けない課題が3回連続で出され、「こんなの(自分達の前提もあってるか不明なのに、シミュレーション回す)意味有るの?」と、投げ出したくなったりもしました。

特に私のようなMBAで初めてファイナンスを勉強した人にとっては、このような応用に特化した授業を取ることで、まず自分自身で基礎知識の抜け漏れを確認できることが嬉しいです。その上、「世の中には見たこともない問題を見たこともない方法で解決している人々がいる」ことに、大きな好奇心が持てます。もちろん、2時間の授業で語れることには限りがあり、表面的な学びにとどまるのですが、それでも「基礎知識でここまで解ける。そこから先に出たこの課題はこう考える」という点に絞っているので、テクニカルな部分で何が肝なのか、は最低限明確に自分に焼き付けられます。

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具体的に学んだ内容の例として、最終課題と1つの授業の内容を、備忘録的に書き残しておきます。

○ 最終課題:
教授から「ちゃんとやると丸1日半くらいかかるよ」と言って渡された、クロスボーダーLBOのケース。とある英国の大企業が赤字に苦しみ、自社の一部門を切り離して米国のPE(プライベート・エクイティ)ファンドに売却する話。この切り離される一部門は、英国の成長が頭打ちになった十数年前に米国にも進出しており、現在の収益の大半は英国本国からだが、将来性は米国の方が全然大きいという状況。まだ欧州ではPEファンドがあまり知られていない時代背景もあり、米国PEファンドが複数、この買収に名乗りをあげる中、「米国に売るべきではない」といった英国既存株主の声も聞かれる。この状況で、1つのPEファームとしてどう動くか、というケース。

以前、教授とのランチの時に、「何に興味ある」、と聞かれて、「クロスボーダーM&A知りたいです」と言ってたのですが、まさに最終課題が私を狙い撃ちしてドンピシャで来た、というイメージ。そう思ってこのケースを見ると、「英国」を「日本」に、「米国」を「米国&中国」に置き換えれば、日本でも同様のことが起こりそうに見えてきます。これは私に対する挑戦状。頑張らねば、という状況でした。

課題は全6題。最初2題:
 (1) 両国各々の事業の価値をどう見積もるか。売却側の言い分をどう信じ、PEファーム固有のスキルをどう反映できるか。
 (2) LBOを行う買収資金をどう借り入れるか。この借り入れは、ディール及び企業価値評価にどう影響するか
これらは、昨年秋学期までの授業の知識程度があれば、何とか解ききれる内容。

次の設問、
 (3) 上記(1)、(2)の中で、英ポンドと米ドルの通貨は、どのように変換され、どうリスクがあるか、
も、授業の講義で出てきた知識をそのまま使えば良く、ここまでは順調に来れます。

しかし、ここからの2題が難儀。
 (4) 事業価値は幾らで、ビッドの際に幾らを提示するか
 (5) 貴方がこのPEファームだったら、買うか。どんな条件が必要か
このケース、普通に事業価値評価で使うWACCを用いたDCF法や、WACCが毎年変化する場合に用いるAPV法が、役に立たない。なぜなら、資金調達の際の負債が巨額かつ毎年変動するため、その利子が企業の収益及び倒産可能性に大きく影響してしまうため。従って、授業で習ったキャピタル・キャッシュフロー法というものを、当てはめてみます。授業では教授が自分のテンプレートであっさり20-30分で説明していたのですが、これを自力で作成して当てはめようとすると、大変。エクセルで循環参照がおきたり(本来おきないようにできるのだが、モデル作ってる際は混乱してわからず)、「本文に書いてないから仮定を置く」とやっていたパラメータが実は重要で、よくよく読み直すと細かいところに書いてあった前提から導けたり。。。

この辺、毎週の宿題の時には3人のチームメンバーがいたので、誰かが間違いや抜け盛れ、新たなアイデアに気付くのですが、いざ1人でやり切るとなるととても大変。久しぶりにプログラマーになった気分で、10時間くらい延々とPCに向かってデバッグを繰り返していた気がします。改めて、チームワークの威力を思い知ると共に、具体的にどういう数字の動きをするのか、が体で染み込んで行き、大変勉強になりました。

そして、最後の質問は、最終講義の内容の理解を試す設問でした。
 (6) もしこの話が当時の英国ではなく、2010年5月のスペインで起きた場合、上記(1)-(5)のあなたの回答はどこがどう変わるか
 
 グローバルには連日ギリシャ/EUROの問題が叫ばれて為替も株価も乱高下をしている中、ローカルにはこの5月に失業率が20%を超えたスペインにこのケースを当てはめるということは、結局何が本質的な問題で何が問題でないか、を問うていることになります。これのヒントを与えてくれた最終講義の概要は、改めて次回に紹介します。

○ ソーシャル・バリュー(Social Value)のケース
上の最終課題も含め、第10回までの授業は、比較的確立された理論、及び、その理論を元にした際に答えの正誤が判断しやすい課題を扱っています。しかし、第11回~13回の授業では、専門家がまさに今議論している未完成の理論を、現実に適用した事例を紹介します。

具体的には、3回とも、発展途上国向けの事例になりました。1つは、今話題のマイクロファイナンスを実施する観点からの話。2つ目は、同じくマイクロファイナンスだが、発展途上国のローカル企業をPEが買収して行う視点。そして、3つ目は、グローバル企業が発展途上国に新規プロジェクトを立ち上げる場合の事例。特に印象に残ったのは、最後のケース。Social Valueという概念を用いて、プロジェクトの阻害要因の洗い出しとその解決を定量的に行ったものです。

Social Valueといわれると、日本語では社会起業家や非営利団体といった言葉が先にたち、その良い面はともかく「利益にならない活動を補助金で補填している」ような胡散臭いイメージが付きまとうかもしれません。また、私個人的にはNon-profitに興味を持っていた昨年4月頃、1つ記事にあげたNethopeのケース以外に、"Global Social Venture Competition"を見に行き、各種パネルディスカッションの中で、やたら"Social Valueをどのように定量評価するかが難しい:発展途上国内の失業者がどれだけ減った、とか、、、"という話を耳にしていた程度の認識でした。

しかし、この授業の学びからは、Social Valueは次のように考えることができるそうなのです。
- あるものやプロジェクトの現在価値は、既存ファイナンスの理論では、CAPMで割引率を算出して将来価値を割り戻したり、Black-Scholes Modelでリアルオプションの価値を算出したりすれば、計算可能。ただしこれらの理論には、市場が効率的であり「神の見えざる手」が成り立たせている、という前提がある。
- しかし、現実世界、市場が効率的に「神の見えざる手」を使うためには、その見えざる手を「助ける手」が必要。具体的には、独占されていない市場が存在し、そこで資産を持つ権利とその価格が担保されなければならない。もしそうなっていなければ、目的のプロジェクトのためだけにでも擬似的にでもそういう世界を作り出さねばならず、それを創るのが「助ける手」である。
- Social Valueは、上記「助ける手」にかかる費用を含めたプロジェクト全体の価値を指す。ここで、「助ける手」にかかる費用は、プラスにもマイナスにもなりうる。
- 具体的にSocial Valueを計算するには、次のステップを踏む。
(1) やろうとしているプロジェクトの現在価値を普通に計算する。これは、プロジェクトに資金を投入する銀行や投資家から見た、Private Valueを指す。
(2) 資金提供者以外に、プロジェクトに関わる全ての直接/間接的な利害関係者を洗い出す。例えば、顧客、従業員、市民、サプライヤー、競合、政府、など。
(3) その各々の利害関係者に、「もし我々のプロジェクトが無かったとしたら、貴方にとってプラスですか、マイナスですか」、と問う。その答えを現在価値に置きなおす。
(4) (3)の合計+(1)のPrivate Valueが、Social Value。

長々と書きましたが、上記の計算そのものは、「次の週末にゴルフに行く費用はトータルで3万円だが、ゴルフに行くことを説得するために、妻や子供をディナーに連れて行かなければならない。この場合、ゴルフの費用にはディナーの費用も含まれる」、という例と変わりません。この場合、かかる合計費用は3万円+「ディナーの価値」としてすぐ計算できます。しかし、家族が本当に満足する「ディナーの価値」が実際幾らなのかを、正確に見積もるのは、難しい。

同様に、Social Valueの計算においても、各利害関係者の損得をどう定量的に金額換算するか、という部分が鍵です。授業でこの説明を聞いた瞬間、「金融の世界って、やはり、何でもかんでも全てお金の価値に置き換える商売なんだなあ」、と改めて思いました。

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授業では、上記のSocial Valueの考え方の講義を聞き、次に実際の企業のケースへ適用する流れでした。このケースは、10年ほど前に、あるグローバル食品メーカーが、ある東南アジアの国に進出し、その国でほとんど作られていないある穀物を栽培してもらい、加工工場を作って売りたい、と考えていました。その国は、気象条件的にはその穀物には適しており、「よほど最終製品の値段が暴落しない限り採算は取れる」と試算できます。しかし、ここに資金を貸してくれる銀行や投資家がほとんどいないのです。それは、どういうわけかその国ではこの穀物を今まで作っていない、過去同様の外資がらみプロジェクトはことごとく失敗、政情不安もある、という事情によります。すなわち、一旦巨額のプロジェクトに突っ込んだら、そもそも立ち上がるのかも、幾ら追加損失が出るのかも判らない。こんな状況で、プロジェクトには実際幾ら必要で、やるならどんな動きをしなければならないか、というケースでした。

以後、Social Valueの計算ステップに従います。まず、利害関係者の洗い出しでは、農民、運搬業者、政府、消費者、市民、従業員の6者が出てきます。次に、それぞれ「このプロジェクトが無かった場合に、価値は上がるか下がるか」を計算します。例えば、運搬業者にとっては、この穀物を運ぶ商売が黒字か赤字か。政府にとっては、法人税、輸入に頼ってた部分の関税、農地や道路の建設費用。消費者にとっては、穀物及び最終製品の需要に対する価格、環境への影響、インフラが整う影響、などなど、個別に一つ一つ金額に直していきます。

中でも一番面白かったのが、農民に対する計算。この場合、「他の作物から切り替えるコストや初期投資を含めて、切り替えた場合利益が上がるかどうか」を、様々な作物と比較します。ここで、私自身ザンビアのプロジェクトで、色々な農家の人に「綿花を作りたいかどうか」をインタビューして回った記憶が鮮明に蘇りました。農民の方々は、自分達が食べる分+外部に売る分の採算とリスクをとても良く考えていて、自分の土地にあった作物のポートフォリオを組んでいました。その時に使っていたのとそっくりな作物別の価格表が、ケースに展示されていて、とても懐かしい。

ザンビアではこの表を元に、単純に利益の絶対額のみで農民の方々とお話しました。しかし、このファイナンスの授業では、作物の切り替えを投資と考えて、現在価値を算出します。この時一番議論になったのは、割引率をどう考えるか。前の授業で教わった通り、国際金融市場にアクセスできる場合、その割引率を使えば良いと考え、プロジェクト自体の割引率は年率13%に設定されています。これで計算すると、農民は新しい穀物に切り替えた方が圧倒的に儲かるはずです。しかし、実際には農民はそうは動かない。これは、作物を切り替えるリスクが大きいことが理由ですが、そのリスクは「割引率に反映される」べきで、しかも、50%程度として計算するそうなのです。確かに、ザンビアの現地銀行からお金を借りた場合の利子は、一番安くて38%でしたので、途上国の農民が自力で借金をして投資をする場合、確実にその利率を上回るリターンを出せそうでないと動かない、と考えるのは、一理あります。こうして、割引率50%で計算しなおすと、わずかに今の作物を続けた方が儲かる、という計算結果になるのです。

このように要因を一つ一つ定量的に評価していくと、それではどうすれば農民達はこのリスクをリスクと思わないで作物を作ってくれるか、という具体的な施策を議論できます。そして授業では、この農民に対する打ち手だけで参考文献が別に2冊用意されており、その結果から各打ち手の予測効果まで定量的に金額で評価しました。これと同様の試算を全利害関係者に行い、各々何がどれだけプラス/マイナスか、全体横並びで比較。こうすると、どういう順番でどの利害関係者にどの施策を打つべきか、全体感を持った議論ができます。つまり、全体と個別の両方に対して、具体的な施策と優先順位付けが可能になる、ということが、Social Valueの大きなメリットなのです。

現実世界では、この企業は各利害関係者を説得し、必要な資金調達を行ってプロジェクトを立ち上げたそうです。途中、農民は大挙して作物を作ってくれるようになったが別の工場に売ってしまったり、資金が枯渇し追加援助を要請したり、など問題は山積みだったものの、個別に対処することで、大きな軸はぶれずに継続。今ではその国の主要作物&農業製品となり、国全体の発展にも貢献しているそうです。

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ポイントだけ書くつもりがとんでもない長さになってしまいました。上記は知っている人にとっては当たり前の内容と思いますが、私にとっては、本当に毎回の授業1回1回に対してこの程度の学びが書けるほど、新しい刺激に満ちていました。今まで全然知らなかった世界に飛び込み、壁にぶつかって非効率に苦労することで、それだけ学びが多く、別の視点で世の中が見れるようになり、新たな興味が沸いてくる。このきっかけを与えてくれた教授には、本当に感謝の気持ちで一杯です。
# by golden_bear | 2010-05-11 22:43 | 学業

Chesbrough教授の講義(2)自分の人生への反映(最終課題を例に)

前回(1)課題設定の妙で挙げた、Chesbrough教授の授業について、続きになります。

先に、この授業の駄目な点で、よく言われていることを幾つか並べてみます。
○ 2時間の中でケースを2-3やるので、1つ1つのケースが浅い議論になる。複数のケースを急いで扱った結果、最後に結局なんだったのか、よく判らないこともある
○ 課題の配点が「授業で扱った考え方を適用できるかどうか」に偏り、最良と思える回答を出し辛い。違う考え方もソースを明示すれば利用可能だが、枚数制限もあり使いづらい
○ 半分の学生がエンジニア、かつ専門分野がコンピューター、バイオ・医療、環境・エネルギー、宇宙工学まで、非常に多岐にわたる。したがって、ある時はMBA生にとって超基本的な話をしなければならないし、またある時は専門技術に偏る。結果、エンジニアとMBAの双方にとって、浅い所で議論が終わる
○ 卒業後メーカーで製品開発やマーケティングで働く人にとって、話が概念的、長期的、特殊ケースに寄りすぎ。自分自身の仕事に直接適用しにくい

確かに、毎回1本に絞ってじっくり議論しきるRassi教授の必修のマーケティング授業などは、似たような授業ながら上記の問題は出ないため、一理あります。しかし、これらの問題点は、「一杯学べる」、「コンセプトを正しく使えるようになる」、「エンジニアから学べる」、「長期的な視点の学びが多い」のメリットの裏返しでもあります。結局、MBAの授業はあくまで叩き台。そこから現実社会に戻った時に、企業および自分自身が何を考えてどう動くかの方が重要、という当たり前のことを、上記の駄目な点が示唆しているように思います。

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この授業では、「ではどう動くか」、という点を、教授自身実践されていて、そこからの学びが多くなっています。前回に引き続き良かった点を、下記並べてみます。

(4) 頭がいい

これは、Chesbrough教授に対して全員が持つ枕詞。もちろん教授という位なので全員頭がいいのですが、「頭がいい」とわざわざ表現される教授はあまり見かけません。そもそも、教授の頭がいいことと、自分の学びの多さには、直接はあまり関係ないですし、たいてい「頭がいい、けれども、、、」という批判の前置きに使われるのは、Chesbrough教授のケースも同じです。

それでも、不思議なほど「頭が良い」と形容される。その秘密は、実際に授業を聞くと即座に理解できます。これを文章で説明するのは難しいのですが、

- フレーミングの巧みさ: 1授業にケース2、3個、と、通常の倍のスピードで、エンジニアとMBAの意見を両方扱う。にも拘らず、他のMBA教授に見られる「くだらない意見はシャットアウトする」という態度ではなく、全ての意見から良い点を抽出して、必ず全体の議論に反映させる。このやり方で授業が時間内に終わる秘密の第一は、やはり質問の巧みさ。前回(1)(2)(3)で書いた「課題設定の巧みさ」が、リアルタイムで発せられる1つ1つの質問全てにまで適用されているからこそ、なせる業。

- 纏めの上手さ: 質問/課題設定に加えて、要点の抽出が上手い。誰かの意見は必ず教授の手でホワイトボードに"3-4語"で書かれる。どんなにだらだら30秒くらい話し続けても、その要点を3-4語以内で纏めてしまう能力は、今までの人生で見た中で一番上手いと思う。

- 議論の展開の広さ: 良い意見には、必ず彼自身による補足事例の説明や追加質問の形で、議論が深められます。これは当然他の教授もやりますが、このときの話の展開のさせ方、類似例&反証例の持ってき方が、尋常でなく凄い所から出てくる。ある時は4-5週前に習った授業内の考え方が一瞬で全く違う形で再現され、またある時は最新ニュースを紐解く切り口にさり気無く突き刺さる。パターンマッチングの事例と処理能力が物凄く豊富で速いのでしょう。

- 説明の明快さ: やや早口だが、全員に聞き取りやすい英語で、判りやすく話す

個人的には、これだけ頭が良ければ、授業の準備に手を抜いても一定のクオリティの授業は展開できるにも関わらず、毎回一生懸命準備して全力で臨む姿勢、が一番凄いと思っています。私自身これらの技術は、是非真似をして、習得に努めたいと思います。


(5) 自分からパーソナルな人間臭い側面をさらけ出す

この教授、授業中に結構個人的な一面をさらけ出します。議論の節々に、「CFOとはこういうものだ」、「スタートアップのCEOはこの場面ではこう考える」、といった形で、実体験や豊富な調査事例をもとに個人的な見解を話すことは、他の教授同様です。しかし、自分が思いっきり失敗したり、苦労した話を堂々と話すところが、他と違うところです。これらの失敗談は、単に知識を伝えるだけなら全く不要ですが、実際に人の考え方や行動を変えるきっかけを与える意味で、とても効果的と思います。

それが一番現れていたのが、ある1回のケース。Chesbrough教授自身が人生で一番ショックを受けた出来事について紹介し、その問題解決のために、自ら「オープン・イノベーション」を実行して取り組んでいる(現在も進行形)内容を、授業で取り扱ったのです。

教授本人のケースということで学生側も多少遠慮があったものの、さすがに「新しいことをあまり見たこともない方法で立ち上げる」、という内容だったため、批判も含め相当多様な意見が出てきました。その1つ1つに対して、授業で扱った学びを元に、「答えはないが、こんな状況のため、こう考えて、こちらのやり方を取っている」と真摯に答える。自分自身がプロジェクトのリーダーとして、ご自身の学説を実際に適用されている姿に、次第に感銘を受けていき、最後に「昨年ある一定の成果が出た」という所では、大きな拍手が起こりました。

この他にも、この教授のファンの方が非公式にTwitterでOpen Innovation関連のトピックを立ち上げて(注1)、そのフォロワーが1万人を超えたため、その方を授業に招待して最初の10分間お祝いのパーティーをしてみる。他のゲストスピーカーも、「最近この議論で話していてとても感銘を受けたから、来ていただいた」という自分の個人的なネットワークから「熱いうち」に呼んで来るあたりも、個人を重視する教授らしさがあらわれています。


(6) 学生の意見を巧みに表に出す

最初の課題が、「レジュメ(履歴書)と写真を教授に送付しろ」というものでした。それを良く覚えているのか、各回の授業で誰にどういう発言をさせる、というシナリオを相当練りこんでいるようです。特に工学部とMBAの共同授業の意味で、その個人の経験を引き出して語る、というのは、相当効果的です。

1つ印象的だったのは、「この考え方を既に取り入れている大企業で働いたことがある人は、ちょっと説明してください」、という質問。あるイノベーションの考え方が対象で、日本だと多くの企業で片手間に検討している部門があるとは想像が付きますが、本気で検討され会社の中核プロセスに直接反映されている企業はあまりないのではないかな、と思っていました。しかし、この授業の場では、「CEO直属部門を作って、毎年数百億円の投資をしている」といったレベルで、もはや中核中の中核プロセスになっている事例が何社も出てくる。しかも、その多くが、過去20年まさに日本企業が戦いに敗れてきた相手達なのです。

もちろん、そのイノベーションの施策が、企業の成長にどれだけ直接繋がったかは、表面的には判りません。しかし、このように、MBAの最新理論を本腰を入れて自社に導入し、過去20年成長し続けている米国企業が複数あることは、「MBAの学びは日本企業のシステムの中では生きない」と良く言われる現状に、「ではどうするのか」という疑問を投げかけている気がします。


(7) Haasやバークレーという場所や、2010年という時代の価値観を、学びのプロセスに照らし合わせる

「オープンイノベーション」は学術用語として正しく定義されており(注2)、この定義は恐らく未来永劫普遍なものと思われます。しかし、これを正しく読み取って、現実に世の中に応用できなければ意味が無い。この定義と応用の関係は、ニュートンやマクスウェル、アインシュタインといった理学部の人が発見した物理法則を、エジソンやライト兄弟などの工学系の人が実現するプロセスであるかのようです。授業ではこのことを何度も、MBAとEngineeringの学生に説いていました。

そして、これは直接語っていないため、私個人の感想ですが、講義全体を通して、「今貴方は地球上の時間軸・場所軸の中でどこに居るのか」が、イノベーションの概念を読み取り解を導き出すために、如何に重要か、ということを伝える瞬間が幾度もあったように思います。それは、何故この教授がHarvardではなくBerkeleyにいるのか、米国の歴史とBerkeleyの歴史、Haasの学長が"Strategic Plan"を打ち出している重要な意味とこの授業での生かし方、等などの熱い小話から、一端が伺えました。


(8) 「あなた個人の人生をこう生きて欲しい」という強いメッセージがある

単なるイノベーションのメカニズムだけでなく、「これは貴方の人生のための授業だ」、というメッセージもとても多い。この直接的な目的は、必要知識の殆どは既に本で出しており、授業の中の学びを通して実際にイノベーションを起こせる人にならなければ意味がない、という意図があるように思います。このことは、ずっとイノベーションのコンセプトを説明したと思えば、その最後に「貴方はどちらの生き方を取りますか?」というスライドを挿入していたり、最終授業のメッセージ(別掲予定)にも色濃く現れていました。

イノベーションというMOTの題材において、最後は個人の資質を変えるところが一番重要という結論は、考えてみれば当然です。そして、より大きなメッセージとして、Open Innovationのコンセプトの中には、イノベーションを実現するリーダーになる方法論と共に、「社会の中で家族と幸せに生きる方法のヒントも入っている」、という話を受け取りました。この言葉を受けて、今後もたびたびオープンイノベーションの考え方を振り返ろう、と思っています。

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前回の記事の(1)-(3)で設定された課題を、(4)の頭の良さを生かして、(5)-(8)の人間臭い方法で解決する。この一連のプロセスが一番発揮されたのが、最終課題でした。その課題をくだいて書くと、下記のようになります

「内部情報にアクセス可能な程度に自分が良く知っている、1つの企業か組織を対象に、授業で習った考え方を当てはめて、下記をチームで纏めること
○ 現在どのようなイノベーションを起こす仕組みがあるか
○ その仕組みがどうビジネスモデルに反映されているか
○ 今後イノベーションの加速のために、どうすべきか
チームは2名-4名で組み、必ずMBAとエンジニアが各1名以上入る事」

多くのチームは、元いた/現在いる企業や、今後就職先となる企業を対象にしていたようです。特に、エンジニアに就業経験がある場合、その企業についてMBAの人がインタビュー等を加えて分析する、というやり方が多いようです。たとえば、あるチームはNASAを対象にして、あまりの組織の複雑さに大変な課題になったそうです。

私のチームは、エンジニア2人(中国人、米国人)と私の3人の構成。対象企業は、チームメンバーの中国人エンジニアが、現在研究室内でエンジェル顧客2社と共に立ち上げ中のスタートアップ。すなわち、Chesbrough教授の授業内容を、この秋にPh.Dを取得後はそのままCEOになる彼の人生そのものに当てはめてみる、という、とても責任感の重いレポートでした。このチームの分析や提案が彼の人生のリスクのとり方を大きく変えてしまうため、当然、彼自身とても本気で取り組んでいましたし、それに答える形で、私も3人の子供がいるアメリカ人エンジニアも、毎日深夜まで喧々諤々の議論を繰り広げました。

完成したレポートの内容を、技術の中身に触れないように書くと、

○ イノベーションの仕組み:
彼が持っている技術は、大企業の既存インフラの上に載せることで、高効率化を達成するもの。自身が持つ技術に、世の中に一般公開されている技術を組み合わせることで、数種類の既存インフラに対して導入が可能。しかし、実際にこれを実現するとなると、自社、顧客企業、既存インフラ提供者、一般公開技術の4者の間で、IP(知的財産権)管理の取り決めが重要な課題となる。ただでさえベンチャーの技術、かつ特許権関連で訴えられる可能性があるものは、売れるわけがない。従って、レポートの半分は、このIP管理をどう設計するか、授業の内容を元に、弁護士や現在の顧客と相談しながら、組み立てていく

○ ビジネスモデル: 
似たような技術を持つ企業や研究所は多数あるようだが、多くの場合は自社で全てブラックボックス化して、製品の形で売っている。しかし、これでは顧客は新規購入が必要でリスクが高く、ニッチな市場でしか売られていないようだ。授業で習ったオープン・ビジネスモデルの枠組みを用いて、既存インフラに導入可能なビジネスモデルを再構築し、現在の顧客との契約更新のときに第1歩を提案できるようにする

○ 今後への提案: 
前の2章がとても実務よりになったので、ここでは、もし授業で習ったことが正しいとすると、この企業は今後何を目指して成長するべきか、という、大上段の目標設定

ほとんどスタートアップを1社立ち上げている気分でしたが、流石にPh.Dを取得しながらスタートアップを立ち上げ、前回の課題でも優秀レポートに選ばれるこの中国人エンジニアとの共同作業は、凄く良い経験でした。一緒に授業で習ったことを叩き台に議論を繰り返すことで、実際に彼自身が試したくなるような面白いアイデアがいくつも出てきて、彼も大満足だった模様です。

私自身にも、ここで検討したIP管理やオープンビジネスモデルの考え方は、大変参考になりました。このビジネスモデルはまだあまり一般的ではないため、彼の会社の今後の成長を見守りつつ、将来私自身も別の業界で試して見ると面白いかも、と考えています。

(注1) @openinno

(注2) "the use of purposive inflows and outflows of knowledge to accelerate internal innovation and expand the markets for external use of innovation, respectively."
# by golden_bear | 2010-05-10 23:44 | 学業


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