A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
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IntuitがMintを買収完了: Haasでの学びから受けた衝撃

本当はここしばらくはインターンの話、それが終わればザンビアの話を集中連載しようとしたのですが、先ほど私にとって衝撃的なニュースがTechcrunchに出てきたので、書き下ろして上げてしまいます。

Mintのファウンダー:IntuitのVPに就任して曰く、6~9ヵ月で「Quicken Onlineは終息させる」


この記事のどこが私にとって衝撃的だったか、というと、次の2点。
(1) 即断即決の買収完了劇とその中身
(2) 双方の会社の幹部が、Haasにて展開していた素晴らしい授業に、私が参加していた

(1)に関しては、まず、高々設立2年足らずのインターネットベンチャー企業であるMintが、約153億円(1$=90円換算)という高値でのEXITを実現した、という、久しぶりに景気の良い話を聴いたことそのものの高揚感があります。そして、被買収側のトップが新しく副社長につき、しかも買収側の主力商品を廃止してしまう。勿論、日本でもニュースなどでよく目にする大企業同士のM&Aでも、社員の士気を保つために社長や経営陣の半分を被買収側から選出して据える、だとか、段階的に強い方の商品を残していく、という話は、普通に行われます。ただし、大企業の場合、様々なしがらみの解決等に時間がかかり、1年半くらいで問題なく完了すれば上出来、と言われているそうです。しかし、シリコンバレーで1年半も待っていたら、その間に他の企業(この場合、Microsoftやgoogle)に食われてしまうし、社員もみんな逃げてしまう。この辺、9月14日に最初のニュースリリースをして、わずか1ヵ月半後の11月2日に結果を示してしまう、シリコンバレーのスピード感に改めて驚いています。

また、このTechcrunchの記事を最後まで読むと、このM&Aはもしかしたら貴重な「イノベーションを加速させるM&A」の事例になりうるのかな、と思っています。貴重な、と書いたのは、Haasで受けたM&Aの授業の中で、教授が常々「M&Aの世界にシナジーという概念はない。あるのは、業績の改善のみだ」と言っていたからです。彼の立場は、予め数字で説明できない統合効果というのは起こりえないし、実際彼の40年の経験上、定性的なシナジーという言葉に頼ったM&Aはことごとく失敗している、という考え方のようです。ましてや、M&Aでイノベーションが発生する、などとでも生徒が話し始めようものなら、即刻退場させるような勢いで、シナジーはない、と強調していました。しかし、私自身はこの教授の考えは腑におちなかった。もちろん、業務上M&Aを扱う時に不確実なものを前提にしてはいけない、というのは当然としても、結果としてイノベーションが急激に加速する例があっても良いではないか、と思っていました。その1つとして(注1)、この本事例が、「強力なリーダーがそれを推進するためのブランド、資金、チーム、サポート等を得る場合」という形で実際に起こると、面白いなと思っています。結果はどうなるかは将来になってみないとわかりませんが、今後もIntuit,Mintの動きには注目したいと思います。

(2)ですが、まずはIntuit。日本ではあまり馴染みがない企業かもしれません(注2)が、アメリカ人なら誰でも知っている(注3)、TurboTaxという確定申告用のソフト、およびそこから派生した様々な個人用・企業向けの会計・税務系のソフトを作っている会社です。昨年、Haasの"Digital Media Product Development Speakers Series"の講師として、商品開発部長の方が講義をしていました。講義の中身は、商品設計開発のプロセスを5段階に分けて、マーケティングとエンジニアがどう協力して進めているか、というものでした。1つ、未だにパソコン用のソフトウェアをパッケージで売る、という、フリーソフトやSaaS(ソフトウェア・アズ・ア・サービス)全盛のこの時代によほど強くないと生き残れない商売のやり方をしているにもかかわらず、Microsoft Moneyはじめ競合のソフトに打ち勝って成長し続けている理由について、印象的な話をしていました。

商品開発のために、よく「顧客の要望を聞け」とは言われますが、この会社はその徹底さが違います。50人くらいの「エンジニア」(「マーケティング担当者」じゃないこともポイント)が、様々なユーザーの家を了承を取って3人組で訪問し、1軒につき丸2日間、ユーザーがどのような「生活」をしているか、ビデオを取って徹底的に検証するそうです。その中で、Intuitの商品がどのような場面で、どのような体勢で使われているのか、使っている最中に何が起こるのか、などなどを徹底的に分析しつくして、商品に反映しているのです。もちろん、家庭の会計系ソフトウェアが人の「生活」全体に占める割合は、ほんのコンマ数パーセントですが、それでもこの活動を始めてから、顧客満足度が大幅に上がったとのこと。「イノベーションは人の行動原理を変えること。常にこの基本に忠実に行動し、巨大な競合企業に打ち勝ってきた」と、繰り返し強調していました。

この話を聞いたときに、最近流行のプロダクト・デザイン・コンサルティング会社(IDEOなど)が今やっているようなことを、ずっと昔から自社でやっていたのか、と素直に感激していたことを覚えています。しかし、このIntuitが満を持して登場させたベストセラー家計簿ソフト、Quickenのインターネット版を、あっさり撤退させてそのパッケージ版も含むトップまで変えてしまったインターネット家計簿ソフトこそが、Mintになります。

Mintと私との出会いは、このブログでも何度か紹介している、今学期の"Case studies for Entrepreneurship"の授業です。1人の生徒のインターン先がまさにMintで、彼女の上司にあたる商品開発部長と2人で、彼女のインターン経験について2時間の授業をしていました。商品開発部にいた、ということで、彼女の仕事=ケースの課題は当然、どのようにIntuitを倒してシェアを拡げるか、が大きなテーマになります。NDAにより、普段目にしない内部情報などもケースを通して見ることができて、とても臨場感がある。私自身この戦略を考えるだけでも、とても楽しいケースでした。

加えて、ここからはNDAのため具体的な詳細を書けないのが残念ですが、立ち上がって2年弱、という急成長の組織の中で、彼女の活動は組織の狭間に落ち込み、身動きが取れなくなってしまいます。日々様々な組織の対立に巻き込まれ、本当に涙を流すほどつらい日々だったことは、ケースの文章からもひしひしと伝わってきました。授業の途中では、自分の元上司を目の前にして、息が詰まるほどの感情の吐露、緊迫の数分間が発生。そして、最終的に彼女のとった行動の1つが正に花開いた直後、劇的な形でこのIntuitによる買収劇が発生してしまった、というのが、9月の最終週にあったこの授業ケースの結末になりました。

シリコンバレーのインサイダーにアクセスできることのありがたみ、そして1つの買収劇にここまで感銘を受ける新たな自分を実感し、Haasに来て良かったなと改めて思っています。


(注1) 他の例としては、創業から20年強で既に130回以上M&Aを繰り返しているCisco。HaasでCiscoの上級副社長の方が授業をした際には、技術的に強い商品を持つ競合企業を買って、自社製品の方をうまく競合しないように改良・余分な機能を削ぎ落とし、両方の製品でラインアップを形成。一気にシェア拡大し、デファクト・スタンダードを形成した事例を紹介していました。「M&Aはイノベーションを起こすための、社内における標準プロセスの一部となっている」のだそうです。

(注2) 日本市場からは2003年に撤退

(注3) 授業の最初にクラス10人にアンケートを取ったところ、Mintは5人、Quickenは4人が使っていて、両方とも使っていないのは私だけでした。
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by golden_bear | 2009-11-03 20:12 | 社会・風土
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