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A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
by golden_bear
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MBA向け公共政策の特別講義2日目:政府のビジネスへの影響

本日は、「最新の政権、議会、政策がそれぞれ、貴方や貴方のビジネスにどう影響するか」のテーマに沿って、下記5つの講義がありました。

(1) Transition to the new administration and congress: What the 2008 election results mean for you (新たな政権と議会への移行:2008年大統領選挙結果が、貴方に意味すること)
(2) National energy policy and regulations (国家のエネルギー政策と規制)
(3) U.S. trade policy (米国の貿易政策)
(4) Developing an advocacy strategy (政府の支援を得るための戦略構築)
(5) The differences between public and private management (公的機関と私企業における、経営の違い)


(1) Transition to the new administration and congress: What the 2008 election results mean for you (新たな政権と議会への移行:2008年大統領選挙結果が、貴方に意味すること)

James A. Thurber博士という、過去オックスフォードやハーバード、UC Berkeleyなどで教鞭をとっていた、著作・テレビ出演多数の政治学の大御所のような方が、2008年の選挙結果により政策、組織プロセス、政党などの何が変化するか、と言った内容を講義しました。

一番驚いたのが、講義のスタイル。
・ 冒頭から学生を適当に指名して「オバマはワシントンを変えると公約に書いているが、変わるか?」「どのくらい掛かるのか?」「何故そう思うのか?」と詰問していき、学生の回答をこき下ろす
・ 「カリフォルニア、特にバークレーのやつらは嫌いだ」を4~5回繰り返す
・ 「これでロビイスト達の暗躍の機会が失われ、透明性が上がって良い」(昨日のスピーカーは、「ロビイストのおかげで組織の隙間が埋まって良い」と言っており、主張が180度異なる)
・ 思っていることを言いたい放題の一方、気に食わない質問は却下

このように、かなりトップダウンの激しいプレゼンでしたが、
・ ハーバードの講義スタイル、ってこんな感じなのか
・ 一瞬で仮想敵(バークレー)を作って、対立議論にするのは、まさに政治家っぽく、テレビ受けもするんだな
という妙な納得感がありました。

内容的に気になったのは、次の3点。

・ 政治家は、民主党も共和党も、過半数を取るためになるべく中道的な案を出す。一方で、1960年に30%ほどいた中道派の政治家は単調減少し、2000年以降2%しかいない。したがって、両方の党が中道的な案を出しても共に支持されず、現在の膠着状態(上院与党58%)になっている

・ 下院エネルギーおよび商業対策委員会候補のHenry WaxmanとJohn Dingellは、民主党内にもかかわらず過去34年間も対立し続けている。オバマが今後排出権取引の法案を進めるには、このような歴史の理解が必要。

・ 現在の経済危機は、目下マクロ政策最大の課題である点で、2つの世界大戦と性格が似ている。マクロ政策は下記6点が揃うと、爆発的に進行するが、そうでなければ政府は動かない。
 - 脅威/問題点が、明確になっているか?
 - 解決法/任務が、明確になっているか?
 - その任務に、強く興味を持っているグループが存在するか?
 - リソースの制約は無いか?
 - 中央集権の体制が整っているか?
 - 「ハネムーン」へ移行できるか?
例えば、第二次世界大戦はパールハーバーがあって初めて、米国は総攻撃を開始し、日本を蹂躙した。この意味で、現在の経済危機は、まだ誰もが違うことを言っているので問題が明確になっておらず、一番最初の点で止まっている。


(2) National energy policy and regulations (国家のエネルギー政策と規制)
エネルギー系の企業や団体を歴任し、現在はデロイトでコンサルタントをしている専門家の方から、今政府と民間企業の中で最も熱い話題になっている、エネルギー問題の全体像を解説していただきました。

前半は、「どの1次エネルギーが、どの2次エネルギーにどれだけ変化され使われているか」を示した1枚の図を元に、下記のような議論

・ 今後、どの2次エネルギーがどれだけ増えるかの試算を元に、1次エネルギーはコストや社会への影響を組み合わせで総量を動かす必要がある。例えば、車のための再生可能エネルギー(renewable energy)のみを単純に増やしても、今は先にElectric Powerに使われてしまって、車用には使われない

・ これをあるシナリオで計算すると、2025年にはエネルギー総消費量が45%増加する。うち半分は、今電気が無いような人向けの生活必需エネルギー、残り半分は、増え続けるぜいたく品(iphoneとか、大きい家)向けのエネルギー

・ これを満たすには、まず減らせるエネルギー消費を減らした上に、追加で原発が50基必要。今6基作り始めたが、完成時期は、今までの法案通過と実行のタイミングを考えると、楽観的に見てライセンス5年、稼動5年の計10年かかる。つまり、17年後は、結構ぎりぎり

後半は、21世紀のトレンドとして、「気候変動への対策と、排出権取引が避けられない大きな課題」、という内容を強調。中でも非常に印象に残ったのは、ドイツやイギリスのおかげで、排出権取引を行って採算が取れるようになったので、アメリカが本腰を入れて取り組むことになったこと。「政府=まず採算ありき」はここでも生きているようです。「なぜ京都議定書に調印しなかったアメリカが今こんなにエコブームなのか」と聞いてみたところ、「京都議定書は目標が高すぎた。できると思わなかったし、予想通り調印した国は未達で投げ出した。今回は、大統領が本腰いれて取り組んでいるので大丈夫」とのこと。


(3) U.S. trade policy (米国の貿易政策)
数ある政策の中で最も込み入っている、貿易関係の政策について、誰が作ってどんな課題があるのか、最新のWTOドーハラウンドの事例を元に、非常に官僚的にてきぱきと淡々と説明していただいた。多大な事前予習資料を斜め読みしてから望んだが、それが却って仇となり、理解していたところで寝てしまい、起きたら理解できてなかったところが終わってた、を繰り返した情けない状況でした。ポイントを2つだけ。

・ 米国がFTAを結ぼうとしてまだ結んでないのは、現在コロンビア、パナマ、韓国の3国。このうち、韓国とFTAを結べれば、NAFTA締結以来最大の利益をもたらすが、1.狂牛病に対する反発、2.韓国自動車業界の力が強すぎて米国に被害が来るところの調整、の2点がボトルネック
・ 現在のWTOが直面している課題は、次の5つ
- 衛生食物検疫措置の障壁(狂牛病など)
- 食の安全(中国、、、)
- 技術の標準(WTOで定める標準と、業界で定める標準の乖離が激しく、対象の設定と規制のかけ方が難しい)
- 知的所有権の保護(中国、、、)
- 通貨インフレの影響


(4) Developing an advocacy strategy (政府の支援を得るための戦略構築)
HPのサーバー部門の方が、空港の航空券発券機を速くするシステムを導入した事例を元に、「企業が政府に取り入る」のための秘伝を伝授する内容。まるで政府向けに特化した営業部隊のトレーニングのようで、下記のような多数のフレームワークを紹介していました。

・ 政府要人を顧客と考えた時に、顧客を知るとは、倫理観、歴史、人(政党、拠点、人となり、イデオロギー、課題)、プロセス、イベントの5つを理解すること
・ 特に、顧客(政府要人)の課題を徹底的に理解し、「顧客(政府要人)の許す時間内で」課題に直結した鋭い質問を投げかけること。これは、10分のこともあれば、1分のこともあり、またメール27文字のこともある。課題に相手が反応したら、それを解くのに必要な要素(時間、落としどころ、リソースなど8項目)を次々につめていく
・ その課題解決に必要なツール(調査、宣伝、ロビイストなど9項目)は、すべて無料かお金で買ってこれるもの。したがって、誰でも実践できる。


(5) The differences between public and private management (公的機関と私企業における、経営管理の違い)
「本質的には、政府と民間企業は同じやり方で経営管理できる」(Graham Mlison)。とはいえ現実にそうなっていない違いの部分の解説と、だからこそ舵取りが難しい、という事例を、昨年12月にGMに資金供給した際のドタバタを元に説明していました。(が、あまりに早口で誰も追いついていなかったので、あとで資料で配られるとのこと)

違うとされるていたのは、下記10項目
1. 時間軸: 政府は2年単位と短く区切られるが、民間は中計などもっと長く考える
2. プロジェクトの耐用年数: 政府は18ヶ月と短い。民間は長い
3. 業績評価: 政府は民衆の評価や次期選挙、民間はシェアや株価など
4. 従業員の問題: 政府は雇用と解雇に対する規制が非常に強く、民間はより柔軟に権限を持っている
5. コアの価値: 政府は公平性、民間は効率性(あるいは競争力)
6. メディアの役割: 政府は常に監視されるが、民間はされない
7. 意思決定・リーダーシップ: 政府は分権制で大変、民間は直接可能で矛盾するリスクが少ない
8. 実行過程: 政府は民衆に見られなければならないが、民間は見せる必要なし
9. 立法・司法の役割: 政府は共に強大、民間は危機でもない限り微小
10. 最終結論: 政府は不透明か定義できない、民間は利益

…5、7、10番目の差をどれだけ近づけるかの勝負かな、という印象です。


まだ半分も終わっていませんが、これまでに魑魅魍魎とした世界とその課題の一端を見ただけでも、「行政官さんご苦労様です」と言いたくなって来た、2日目でした。
by golden_bear | 2009-01-06 23:15 | Washington Campus
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