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A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
by golden_bear
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International Finance 授業からの学び

この授業は人気がなく、7人しか受講しなかったのですが、私にとっては、全然知らなかった世界があることを新たに知ったという意味では、2年間に教室で受けた授業で一番驚きと学びの多かった授業です。文章で伝えるのは難しいですが、紹介してみます。

まず講義内容ですが、「国際金融は国際でない場合と計算式上で何が異なるか、リスクはどのように分類され、それぞれ収益予測と割引率にどのように効いてくるか、それらリスクはどうヘッジできるか、そのヘッジを含めて投資を実現し実際にリターンを得るために、マネージャーとしてどう動くべきか」。加えて、タックスヘブンなど国際金融を学ぶ上で避けて通れないテーマを包括的に含んでいます。

教授はパキスタン人で、昨年までシカゴ大で教えていましたが、今年から「金融と社会の接点部分をより深めて研究したい」という理由で、バークレーに移ってきた方。授業は全14回で、下記の流れに沿っています。
- 第1-3回: 講義形式(第3回のみケースも有)。Corporate Financeの考え方が、Internationalになった場合に、何がどう変わるかという理論
- 第4-5回: ケース集(1) 第1~3回の理論を用いたケース
- 第6回:中間試験。MBAにしては珍しくノート等の持込が一切禁止。
- 第7回:講義形式: リスクとリスクヘッジの方法
- 第8-10回: ケース集(2) 国際プロジェクトファイナンスと通貨ヘッジのケース
- 第11-13回: ケース集(3) 最先端の金融理論の適用例
- 第14回: ケース集(4) タックスヘブン
- 第15回: 最終講義: 金融危機の分析と今後
- 最終講義後の週末に、持ち帰りの最終試験。1週間期限で、1つの膨大なケースが課題。

負荷はかなり重い。中間と期末に試験があることに加え、毎週のケースでは、10ページ程度の読み物+エクセル10シート分程度のデータを元に、2-3人のチームで5-10問程度の課題をレポートにまとめて提出。この課題、最初2-3題だけでも、昨年秋学期までのファイナンス系授業の知識を総動員し、M&Aのバリュエーションを普通に1つやり切る程度の負荷。ここまでで大抵5時間くらいかかるのですが、これに加えて、普通にやったら必ず落とし穴に嵌るケースばかり選ばれていることが特色。課題の後半部分は、普通に解けない問題をどう対処するか、という内容になってくるのです。途中、モンテカルロシミュレーションを回さないと解けない課題が3回連続で出され、「こんなの(自分達の前提もあってるか不明なのに、シミュレーション回す)意味有るの?」と、投げ出したくなったりもしました。

特に私のようなMBAで初めてファイナンスを勉強した人にとっては、このような応用に特化した授業を取ることで、まず自分自身で基礎知識の抜け漏れを確認できることが嬉しいです。その上、「世の中には見たこともない問題を見たこともない方法で解決している人々がいる」ことに、大きな好奇心が持てます。もちろん、2時間の授業で語れることには限りがあり、表面的な学びにとどまるのですが、それでも「基礎知識でここまで解ける。そこから先に出たこの課題はこう考える」という点に絞っているので、テクニカルな部分で何が肝なのか、は最低限明確に自分に焼き付けられます。

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具体的に学んだ内容の例として、最終課題と1つの授業の内容を、備忘録的に書き残しておきます。

○ 最終課題:
教授から「ちゃんとやると丸1日半くらいかかるよ」と言って渡された、クロスボーダーLBOのケース。とある英国の大企業が赤字に苦しみ、自社の一部門を切り離して米国のPE(プライベート・エクイティ)ファンドに売却する話。この切り離される一部門は、英国の成長が頭打ちになった十数年前に米国にも進出しており、現在の収益の大半は英国本国からだが、将来性は米国の方が全然大きいという状況。まだ欧州ではPEファンドがあまり知られていない時代背景もあり、米国PEファンドが複数、この買収に名乗りをあげる中、「米国に売るべきではない」といった英国既存株主の声も聞かれる。この状況で、1つのPEファームとしてどう動くか、というケース。

以前、教授とのランチの時に、「何に興味ある」、と聞かれて、「クロスボーダーM&A知りたいです」と言ってたのですが、まさに最終課題が私を狙い撃ちしてドンピシャで来た、というイメージ。そう思ってこのケースを見ると、「英国」を「日本」に、「米国」を「米国&中国」に置き換えれば、日本でも同様のことが起こりそうに見えてきます。これは私に対する挑戦状。頑張らねば、という状況でした。

課題は全6題。最初2題:
 (1) 両国各々の事業の価値をどう見積もるか。売却側の言い分をどう信じ、PEファーム固有のスキルをどう反映できるか。
 (2) LBOを行う買収資金をどう借り入れるか。この借り入れは、ディール及び企業価値評価にどう影響するか
これらは、昨年秋学期までの授業の知識程度があれば、何とか解ききれる内容。

次の設問、
 (3) 上記(1)、(2)の中で、英ポンドと米ドルの通貨は、どのように変換され、どうリスクがあるか、
も、授業の講義で出てきた知識をそのまま使えば良く、ここまでは順調に来れます。

しかし、ここからの2題が難儀。
 (4) 事業価値は幾らで、ビッドの際に幾らを提示するか
 (5) 貴方がこのPEファームだったら、買うか。どんな条件が必要か
このケース、普通に事業価値評価で使うWACCを用いたDCF法や、WACCが毎年変化する場合に用いるAPV法が、役に立たない。なぜなら、資金調達の際の負債が巨額かつ毎年変動するため、その利子が企業の収益及び倒産可能性に大きく影響してしまうため。従って、授業で習ったキャピタル・キャッシュフロー法というものを、当てはめてみます。授業では教授が自分のテンプレートであっさり20-30分で説明していたのですが、これを自力で作成して当てはめようとすると、大変。エクセルで循環参照がおきたり(本来おきないようにできるのだが、モデル作ってる際は混乱してわからず)、「本文に書いてないから仮定を置く」とやっていたパラメータが実は重要で、よくよく読み直すと細かいところに書いてあった前提から導けたり。。。

この辺、毎週の宿題の時には3人のチームメンバーがいたので、誰かが間違いや抜け盛れ、新たなアイデアに気付くのですが、いざ1人でやり切るとなるととても大変。久しぶりにプログラマーになった気分で、10時間くらい延々とPCに向かってデバッグを繰り返していた気がします。改めて、チームワークの威力を思い知ると共に、具体的にどういう数字の動きをするのか、が体で染み込んで行き、大変勉強になりました。

そして、最後の質問は、最終講義の内容の理解を試す設問でした。
 (6) もしこの話が当時の英国ではなく、2010年5月のスペインで起きた場合、上記(1)-(5)のあなたの回答はどこがどう変わるか
 
 グローバルには連日ギリシャ/EUROの問題が叫ばれて為替も株価も乱高下をしている中、ローカルにはこの5月に失業率が20%を超えたスペインにこのケースを当てはめるということは、結局何が本質的な問題で何が問題でないか、を問うていることになります。これのヒントを与えてくれた最終講義の概要は、改めて次回に紹介します。

○ ソーシャル・バリュー(Social Value)のケース
上の最終課題も含め、第10回までの授業は、比較的確立された理論、及び、その理論を元にした際に答えの正誤が判断しやすい課題を扱っています。しかし、第11回~13回の授業では、専門家がまさに今議論している未完成の理論を、現実に適用した事例を紹介します。

具体的には、3回とも、発展途上国向けの事例になりました。1つは、今話題のマイクロファイナンスを実施する観点からの話。2つ目は、同じくマイクロファイナンスだが、発展途上国のローカル企業をPEが買収して行う視点。そして、3つ目は、グローバル企業が発展途上国に新規プロジェクトを立ち上げる場合の事例。特に印象に残ったのは、最後のケース。Social Valueという概念を用いて、プロジェクトの阻害要因の洗い出しとその解決を定量的に行ったものです。

Social Valueといわれると、日本語では社会起業家や非営利団体といった言葉が先にたち、その良い面はともかく「利益にならない活動を補助金で補填している」ような胡散臭いイメージが付きまとうかもしれません。また、私個人的にはNon-profitに興味を持っていた昨年4月頃、1つ記事にあげたNethopeのケース以外に、"Global Social Venture Competition"を見に行き、各種パネルディスカッションの中で、やたら"Social Valueをどのように定量評価するかが難しい:発展途上国内の失業者がどれだけ減った、とか、、、"という話を耳にしていた程度の認識でした。

しかし、この授業の学びからは、Social Valueは次のように考えることができるそうなのです。
- あるものやプロジェクトの現在価値は、既存ファイナンスの理論では、CAPMで割引率を算出して将来価値を割り戻したり、Black-Scholes Modelでリアルオプションの価値を算出したりすれば、計算可能。ただしこれらの理論には、市場が効率的であり「神の見えざる手」が成り立たせている、という前提がある。
- しかし、現実世界、市場が効率的に「神の見えざる手」を使うためには、その見えざる手を「助ける手」が必要。具体的には、独占されていない市場が存在し、そこで資産を持つ権利とその価格が担保されなければならない。もしそうなっていなければ、目的のプロジェクトのためだけにでも擬似的にでもそういう世界を作り出さねばならず、それを創るのが「助ける手」である。
- Social Valueは、上記「助ける手」にかかる費用を含めたプロジェクト全体の価値を指す。ここで、「助ける手」にかかる費用は、プラスにもマイナスにもなりうる。
- 具体的にSocial Valueを計算するには、次のステップを踏む。
(1) やろうとしているプロジェクトの現在価値を普通に計算する。これは、プロジェクトに資金を投入する銀行や投資家から見た、Private Valueを指す。
(2) 資金提供者以外に、プロジェクトに関わる全ての直接/間接的な利害関係者を洗い出す。例えば、顧客、従業員、市民、サプライヤー、競合、政府、など。
(3) その各々の利害関係者に、「もし我々のプロジェクトが無かったとしたら、貴方にとってプラスですか、マイナスですか」、と問う。その答えを現在価値に置きなおす。
(4) (3)の合計+(1)のPrivate Valueが、Social Value。

長々と書きましたが、上記の計算そのものは、「次の週末にゴルフに行く費用はトータルで3万円だが、ゴルフに行くことを説得するために、妻や子供をディナーに連れて行かなければならない。この場合、ゴルフの費用にはディナーの費用も含まれる」、という例と変わりません。この場合、かかる合計費用は3万円+「ディナーの価値」としてすぐ計算できます。しかし、家族が本当に満足する「ディナーの価値」が実際幾らなのかを、正確に見積もるのは、難しい。

同様に、Social Valueの計算においても、各利害関係者の損得をどう定量的に金額換算するか、という部分が鍵です。授業でこの説明を聞いた瞬間、「金融の世界って、やはり、何でもかんでも全てお金の価値に置き換える商売なんだなあ」、と改めて思いました。

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授業では、上記のSocial Valueの考え方の講義を聞き、次に実際の企業のケースへ適用する流れでした。このケースは、10年ほど前に、あるグローバル食品メーカーが、ある東南アジアの国に進出し、その国でほとんど作られていないある穀物を栽培してもらい、加工工場を作って売りたい、と考えていました。その国は、気象条件的にはその穀物には適しており、「よほど最終製品の値段が暴落しない限り採算は取れる」と試算できます。しかし、ここに資金を貸してくれる銀行や投資家がほとんどいないのです。それは、どういうわけかその国ではこの穀物を今まで作っていない、過去同様の外資がらみプロジェクトはことごとく失敗、政情不安もある、という事情によります。すなわち、一旦巨額のプロジェクトに突っ込んだら、そもそも立ち上がるのかも、幾ら追加損失が出るのかも判らない。こんな状況で、プロジェクトには実際幾ら必要で、やるならどんな動きをしなければならないか、というケースでした。

以後、Social Valueの計算ステップに従います。まず、利害関係者の洗い出しでは、農民、運搬業者、政府、消費者、市民、従業員の6者が出てきます。次に、それぞれ「このプロジェクトが無かった場合に、価値は上がるか下がるか」を計算します。例えば、運搬業者にとっては、この穀物を運ぶ商売が黒字か赤字か。政府にとっては、法人税、輸入に頼ってた部分の関税、農地や道路の建設費用。消費者にとっては、穀物及び最終製品の需要に対する価格、環境への影響、インフラが整う影響、などなど、個別に一つ一つ金額に直していきます。

中でも一番面白かったのが、農民に対する計算。この場合、「他の作物から切り替えるコストや初期投資を含めて、切り替えた場合利益が上がるかどうか」を、様々な作物と比較します。ここで、私自身ザンビアのプロジェクトで、色々な農家の人に「綿花を作りたいかどうか」をインタビューして回った記憶が鮮明に蘇りました。農民の方々は、自分達が食べる分+外部に売る分の採算とリスクをとても良く考えていて、自分の土地にあった作物のポートフォリオを組んでいました。その時に使っていたのとそっくりな作物別の価格表が、ケースに展示されていて、とても懐かしい。

ザンビアではこの表を元に、単純に利益の絶対額のみで農民の方々とお話しました。しかし、このファイナンスの授業では、作物の切り替えを投資と考えて、現在価値を算出します。この時一番議論になったのは、割引率をどう考えるか。前の授業で教わった通り、国際金融市場にアクセスできる場合、その割引率を使えば良いと考え、プロジェクト自体の割引率は年率13%に設定されています。これで計算すると、農民は新しい穀物に切り替えた方が圧倒的に儲かるはずです。しかし、実際には農民はそうは動かない。これは、作物を切り替えるリスクが大きいことが理由ですが、そのリスクは「割引率に反映される」べきで、しかも、50%程度として計算するそうなのです。確かに、ザンビアの現地銀行からお金を借りた場合の利子は、一番安くて38%でしたので、途上国の農民が自力で借金をして投資をする場合、確実にその利率を上回るリターンを出せそうでないと動かない、と考えるのは、一理あります。こうして、割引率50%で計算しなおすと、わずかに今の作物を続けた方が儲かる、という計算結果になるのです。

このように要因を一つ一つ定量的に評価していくと、それではどうすれば農民達はこのリスクをリスクと思わないで作物を作ってくれるか、という具体的な施策を議論できます。そして授業では、この農民に対する打ち手だけで参考文献が別に2冊用意されており、その結果から各打ち手の予測効果まで定量的に金額で評価しました。これと同様の試算を全利害関係者に行い、各々何がどれだけプラス/マイナスか、全体横並びで比較。こうすると、どういう順番でどの利害関係者にどの施策を打つべきか、全体感を持った議論ができます。つまり、全体と個別の両方に対して、具体的な施策と優先順位付けが可能になる、ということが、Social Valueの大きなメリットなのです。

現実世界では、この企業は各利害関係者を説得し、必要な資金調達を行ってプロジェクトを立ち上げたそうです。途中、農民は大挙して作物を作ってくれるようになったが別の工場に売ってしまったり、資金が枯渇し追加援助を要請したり、など問題は山積みだったものの、個別に対処することで、大きな軸はぶれずに継続。今ではその国の主要作物&農業製品となり、国全体の発展にも貢献しているそうです。

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ポイントだけ書くつもりがとんでもない長さになってしまいました。上記は知っている人にとっては当たり前の内容と思いますが、私にとっては、本当に毎回の授業1回1回に対してこの程度の学びが書けるほど、新しい刺激に満ちていました。今まで全然知らなかった世界に飛び込み、壁にぶつかって非効率に苦労することで、それだけ学びが多く、別の視点で世の中が見れるようになり、新たな興味が沸いてくる。このきっかけを与えてくれた教授には、本当に感謝の気持ちで一杯です。
by golden_bear | 2010-05-11 22:43 | 学業
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