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A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
by golden_bear
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WalmartのCSR戦略に関する講演

さて、Black FridayとCyber Mondayを楽しんだ直後のタイミングで、世界一の小売企業、WalmartのChief Administrative Officer, Tom Mars氏がCSRのトピックスで講演しに来る、というので、楽しみにして行ってきました。何故、楽しみだったかというと、主に下記の3点です。

(1) 前職時代に携わった2つの小売業の案件に、大変思い入れがあったから
(2) あまりなじみはないが「とてつもない」企業だから
(3) CSR(Corporate Sotial Responsibility:企業の社会的責任)のイメージとは、かつてはかけ離れていたため、本物か偽善かの興味

(2)について。Walmartというと、少なくとも私はあまりピンと来ない会社でした。丁度私が社会人になった頃、日本では西友を傘下におさめて、米国流の"Everyday Low Price"を導入したところ、チラシの特売が無くなってしまった負の効果の方が全然大きく、業績が低迷。社員のモチベーションが下がった、というニュースが良く流れていました。また、米国でも、Walmartは主に郊外で店を展開していますので、日本人が良く住むような大都市(ニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴ、サンフランシスコ、ボストンなど)にいる限り、あまり使う機会は無いです。しかし、間違いなく凄いです。日経ビジネス2009年7月27日号のウォルマート特集記事にあった、幾つかの情報を並べてみると、

○ 売上高:約40兆円(当時。トヨタの2倍)。世界最大企業
○ 世界長者番付の11位~14位を創業者一族が独占。その合計は706億ドル(約6兆7000億円、当時)。個人1位のビルゲイツ氏の400億ドルを大きく上回る
○ 規模: 世界16カ国・地域に進出(アメリカ大陸10カ国+中国、英国、インド、日本)。週に2億人が買い物をする。220万人の従業員を持つ、世界最大の雇用者。
○ 87%の消費者が、「ウォルマートが最安値だ」と認識(注:出典不明)。同じく1962年にオープンした業界2位のターゲットとは、実際には1~3%の価格差しかないが、今の売上高は6倍の差。
○ 超高速物流センター:業界に先駆けて機械化とコンピューター化に取り組み、そこにウォルマート流の地道な改善努力が積み重なる。20年間で人員を4割削減に成功。
○ サプライヤーとの力関係:89年にP&Gが社員10人を「ウォルマート・チーム」として組織して以来、現在は250人のチームがウォルマート本社前に常駐。現在、数千社がベントンビル近郊にウォルマート・チームのオフィスを抱え、90年に9万7,500人だった群の人口が08年には20万9,800人にまで増えた。

さらに、Walmartが末恐ろしいのは、ネットの世界も制覇していること。Walmart won the Thanksgiving Day online shopping battle(Venture Beat)という記事によると、Thanksgiving Dayのウェブ訪問数は、なんとAmazon.comより多く、他の記事でも1位か2位(注1)。日本では、町に店舗を抱えている小売業各社のウェブサイトが楽天と互角に張り合っているイメージがないので、凄い舵の切り方と思います。

(3)について。私が初めて仕事で米国にきた2005年には、連日従業員による告訴やストライキなど、ウォルマート批判のニュースばかり流れ、不買運動すら起こっていました。この時代の話は、同じく日経ビジネスによると、
○ 女性従業員への差別的待遇で、連邦地裁が巨大集団訴訟を認める決定を下した
○ カリフォルニア州では、住民投票で出店が阻止された。低賃金が地域の賃金水準の低下を招くことが理由
○ バングラデシュの工場でウォルマート向けの衣料を作っていた少女2名が、職場の実情を全米で講演(時給14セントで朝8時から夜10時まで働き、時には午前3時まで働かせ、工場の床で眠らされ、仕事が遅いという理由で何度も殴られ、鼻血を出して気を失う、など)

しかし、2005年夏に米南部を襲ったハリケーン、カトリーナの被災地向けに、2,450台のトラックを救援作業に投入したことがまさに神風に。これを機に、CEOのリー・スコットは"Sustainability"を戦略の中心に据える。この戦略は、下記メリットを生んでいるようです。
○ 運送費や梱包費のコスト削減に直結
○ 店舗の多様化に成功: 富裕層対象にした「エコ店舗」(太陽電池や風車で発電)、低所得層には地域特性に合わせた新店舗で対応
○ グローバル展開の成功要因

この日経ビジネスの記事のように、米国のビジネススクールでも、CSRにより復活・成功した事例として、度々事例が挙げられているのを目にしていました。そして、当然日本の小売店も、この流れを研究して真似しているところは多いです。しかし、そもそもCSRという考え方自体に多少眉唾な私からすると、本当に企業文化がこんなに180度変われるのか、疑問だった。だからこそ、今回の事務方のトップによる講演が、とても楽しみでした。

実際の講演は、下記のように途中でリー・スコット氏のビデオを交えながら、対談形式で行われました。
WalmartのCSR戦略に関する講演_c0174160_2385688.jpg
単刀直入な印象として、Tom Mars氏の口調も内容も、とても歯切れが悪い。あまり質問者の回答に応えたくないのか、煙に巻くような感じで、あまり核心部分には触れずに全然面白くない話を延々としていました。これには、聴衆もあきれたのか、何人かは突然帰っていってしまいましたし、私も途中で中国語のテスト勉強をしたりしていました。それでも下記のポイントは面白かったところです。

○ リー氏の出張で世界中を視察に回るときにいつも帯同しているが、彼は特に南米やインドなど新興国に行った際に、CSRがらみでは賞賛を受けることが多い。その中で、さらに新しいインサイトやアイデアを得て勉強している
○ リー氏が、"Sustainability","Responsibie Leadership"を打ち出しても、現場は全然動いてくれない。多くの店員の反応も、「そりゃ、私だってやりたいさ。でも、忙しくて無理だよ」。
○ 店員のみならず、管理職や、システムも全然ついていっていない。
○ 自社内ですら上手く動けていないのに、サプライヤーを巻き込むのはもっと全然大変。政府などその他の様々なステークホルダー対応も必要。
○ したがって、CSRで成功するには、まず第一に最優秀な人材の雇用。全ては人で、実現できるかどうかが決まる。そして、活動(およびその深刻さ)の見える化。さらに、とにかく現場の声を聞くこと。

1番目の話以外は、ほとんど、社長と現場に挟まれたNo.2の愚痴、といった感じです。これを聞いて、日本の小売業も、社長は優れたビジョンや見識、信念を持っている方が多いけど、その下で実際にインプリする人は、どういう方々なのか、気になりました。小売店の創業者には、古くはダイエーの中内氏やヤオハンの和田氏に始まり、現在もセブン・アイの鈴木氏、イオンの岡田氏、ローソンの新浪氏、ワタミの渡邊氏、吉野家の安部氏、そしてUNIQLOの柳井氏など、優れたビジョンを持つ方がいっぱい。メディアでも良く目にしています。しかし、本当に大変なその直下で支える方々が、どう違っていたのかは、あまり表に語られないので、実は懐刀の違いって大きいのかもしれない、とも思っています。

その後の質疑応答。100人くらい会場にいても誰も手を上げないので、「サステイナビリティプロジェクトがいっぱいあるとのことですが、その効果測定ってどうやるのですか?例えば、企業のパフォーマンスや、個人の業績評価に、どう反映するのでしょうか」、と質問してみました。すると、またもや歯切れが悪いのですが、下記のような答えが

○ 効果測定は、定量的には無理。一番明確なもので、CO2削減目標8%として、大きなところでは物流効率化でX%あるはず、など積み上げているが、個々の具体的なプロジェクト単位では、なかなか活動結果を数値効果へ結びつけることは出来ない
○ 1つやっているのは、競合比較。他社に比べて、これだけ環境に貢献しています、という形でのアピールは、積極的にしている
○ 従業員に対しては、数千件の現場の改善アイデアを募集・実現し、お互いに事例発表をして、面白いアイデアが出てきたら横展開してもらう、という形。これら改善活動の取り組みに、エコの改善活動を取り入れて、とりあえず何でもやってもらう。効果まで計るというよりは、とにかくいっぱいアイデアを積み上げて実行する、実現件数を重視している段階。評価の査定に直接反映するところまでは、いっていない。
○ CEOと私(CAO)ともう1人(聞き取れず)の3人の取締役が活動責任者になっており、強いてこの活動自体を人事考課に入れている人、という意味では、この3名のみ。


これを聞いて思ったことも含め、今回の学びです。
○ CSRやSustainabilityといった活動は、トップレベルが戦略の大方針を打ち立てるには有効かもしれない。Walmartの場合も、法律問題・不買運動・カトリーナといった事件をきっかけに、CSRの考え方を世界展開戦略に生かして、不況を乗り切っているのは、その通りでしょう。
○ 一方、CSRやエコの活動はやはり現場の活動レベルに落とすのは、相当大変。効果測定不能で人事評価に結びつかないなら、何か業績不振みたいなことがきっかけに、打ち切られる可能性が高い
○ したがって、「CSRやエコに社員が一丸となって取り組んでいる」状態の会社は、良い会社だが、ある意味他にやることがない=成長が止まった会社とも見れる。この点、例えば、UNIQLOがニューヨークで日本式の広告展開で成功している、といった話をニュースで目にすると、今からでも米国に進出して、Walmartの牙城を崩すのは、案外不可能ではないかもしれない。
○ これらをインプリしなきゃいけないNo.2あるいは中間管理職は大変。UNIQLOが好調なのは、社長は勿論、優秀なNo.2がいっぱいいて支えているからなのかもしれない。
○ 日本は「CO2、25%削減」とトップが言っているが、「日本株式会社」の中間管理職にあたる、各企業のトップや中央官庁、および、生活者がどうインプリするか。少なくとも、WalmartのリーCEOみたいに、長期政権&誰にも有無を言わさない好業績が必要かもしれない。


それにしても、改めて小売業は面白い。というわけで、先月より、来年2月20日に開催される、Haas Asian Business Conference、中でもConsumer Panelを手伝っています。この話は、また別途書きたいと思います。さしあたり、もしこの会議に参加したい日本企業の方(パネリスト、スポンサー、および参加者)、あるいは、参加可能性のありそうな日本企業の方を紹介していただける方がいましたら、非公開コメントにてご一報いただけると、助かります。宜しくお願いいたします。

(注1) 集計方法により、結果は違う。例えば、こことか、ここは、違うランキングを載せています。
by golden_bear | 2009-12-03 21:42 | 学校のイベント
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