A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
by golden_bear
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Cisco 本社で受けた衝撃、と、その日本への意味合い考察

さて、大学がストライキの最中ではありましたが、金曜日の午後にサンノゼにあるCisco本社を見学に行きました。Haas Tech Clubが主催するこの企業訪問、通常は就職活動が主目的ではありますが、今回はHaas卒業生のグローバルマーケティング担当上級副社長による講義の他、ビデオ会議システムなど、現在のCiscoの主力製品を紹介してもらう時間がたっぷりあり、まるでSony Plazaに来たかのように、純粋に楽しむ側面が強いものでした。実は今まで幾つか別の企業訪問もあったのですが、「建物内の写真撮影や内容の口外厳禁」というところが多かったので、このブログでも取り上げてきませんでした。しかし、今回はなんと「ビデオは駄目だけど、写真は自由に撮って良いよ」。通信機器という秘匿性が高い商品を扱い、また通常MBAに関しては留学生は一切採用しない、この秘密主義満々のCiscoから、こういう台詞が出てきた以上、先方のご希望通り、幾つか写真を載せちゃいます。

まずは、受付嬢。
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実際話しかけて見ましたが、普通の受付と変わらぬ対応。恐らくセキュリティー面を考えると、人を置くより優れているのかもしれません。これだと、何人もの高価な方々を採用する必要もないですし、もしかしたらマクドナルドのドライブスルーの応答みたいに、インドから受付する会社も出てくるかもしれません。

次に、電話会議システム。これは、丁度私がHaasに入学する2008年中頃に、「シスコがとんでもないバーチャルリアリティを開発してた!」という噂が出回ってたり、今年授業でCiscoの方をインタビューしに行ったときも、「シスコはCO2削減に関して、エコカーなんかよりも、自社の会議システムを積極的に導入して、もはや人間の移動そのものを減らしてしまう」とか言われてて、元々興味があったのですが、実際に見て「これか!」と驚きました。
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4部屋で16名が会議をしている、という想定で、繋がってましたが、もはや機械を感じさせない。マイクに向かって話しかけなくても、スピーカーに耳を近づけなくても、お互いあたかも同じ部屋に居るかのように受け答えが出来ます。そして、誰かがしゃべると、3つある画面(写真では左2つしか写っていません)の1つがその声に反応して自動的に話者をズームし、他の2つの画面は、その話者を見ているような格好に自動的になります。プレゼン資料などは、画面の下に映し出され、プロジェクターの役割を果たしています。

というわけで、百聞は一見にしかず。これは宣伝用なので勿論最高の通信環境に設置されていたと思いますが、この装置自体1人/部屋用から18人/部屋用までさまざまなスペックのラインナップを現在拡張しているみたいで、もし似たように機能するなら、本当にドラえもんの漫画で書かれる22世紀の世界を見るようです。そして、私の現在のインターン先のCEOは、「最近は良いテクノロジーさえあれば、スタートアップでもいきなりのグローバル展開は難しくない」との考えの持ち主でして、実際彼が前に立ち上げた会社では創業2-3年目くらいに世界中への事業展開を成功させているのですが、このような装置がもし手に入るのであれば、ますます最初からグローバルで勝負するスタートアップが増えていくのだろうなあ、と楽しみに感じています。


最後に、Ciscoと携帯機器との連動についてです。丁度今週、Ciscoが提供するインターネット会議システムのWebExのiPhoneアプリ版のリリースが始まったとのことで、iPhoneユーザーが仕事で使うVoicemail,WebEx,その他の録音通信機能を、如何に心地よく使えるか、実際にiPhoneを持っている人にその場で電話してもらい、デモをしていました。そして、iPhone、その他の携帯電話、デスクトップ、ノートPC、IP電話、、、どこからでも、同じビデオ通信が見れることを、色々な場面をロールプレイすることで、実感しました。
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このプレゼンの中で、下記2つの説明が、Ciscoの末恐ろしさを私に実感させました。
(1) 「これらのサービスは、全て3Gで十分実用に耐えますよ。もちろん、Wifiに繋がったら、その人だけもっと品質は良くなるけど」

Ciscoという会社は、インターネットの会社というイメージが強かったので、電話や3Gの世界とは対立しているものだとばかり考えていたのですが、それは完全な間違いでした。米国の通信インフラ事情は、国土が広いためか米国人が几帳面でないからか、場所によって当たり外れが激しい。日本ならば、iPhoneに対する文句をSoftbankのカバー率や回線品質の悪さに求めたりしますが、米国では日本のSoftbankほどよく繋がるキャリアがあれば奇跡です。ならば、そのインフラを改善するのではなく、最低スペックで十分実用に耐えるものを開発する、という発想。それを、自社製品と競合する3G製品に得をさせてでも、実現する勇気が、素晴らしい。

見方を変えると、これはイノベーションの要素の1つ、"Good Enough"という考え方をまさに地で行っているサービスだ、とも思いました。"Good Enough"とは、「もし最高のものでなくても、顧客/ユーザーにとって十分満足できるものなら、それ以上の追求はしてはいけない。時間とコストの無駄」、という考え方です。では、どこがGood Enoughなのか、という点を見極めるのが、マーケティングと製品管理担当者の芸術たるところです。

そして、プレゼン中にこの"Good Enough"の芸術を垣間見ることが出来ました。デモの最中に、なんとiPhoneからの会議システムが失敗して起動しなくなりました。それも、何度も、です。この言い訳としてプレゼンターが、「ほら、こうやってデモをやる時に限って、良く失敗するんです。でも、普段は繋がりますし、最悪こうすれば普通の電話会議にすぐ切り替えられるので、問題ないです」という説明。日本で企業向けに通信手段を売ろうものなら、99.999%くらいミスのない状態にした後に売るのが普通でしょうが、Ciscoでは、80%くらいの成功率+失敗時の代替手段を抱き合わせにして売っているように見えます。


(2) 「デスクトップ・ガジェットの分野では、マイクロソフトさんには勝てませんので、代わりにマイクロソフトさんのガジェット内にわが社のAPIを入れてもらい、わが社のサービスも顧客が選択できるようにしてもらいました」
(注1)

先ほどの3G製品に乗っかる話に加えて、競合製品が強いときの対処法。もともとCiscoは、この通信システムを使うためのソフトを当然、iPhone用、携帯用、PC用、などなど各種機器向けに全て自社開発していました。しかし、その頃MicrosoftはWindows OS内に同様のソフトを持っていて、かつ今後の成長分野として拡大しようとしていました。想像するに、「Windows OSの標準装備」 VS 「Ciscoのホームページからダウンロードして使うソフト」の勝負では分が悪い、と判断したCiscoは、あっさり負けを認め、代わりにMicrosoftの顧客がMicrosoftのソフト使用率を上げる方法を提案して、自社ソフトにも誘導する戦略をとったものと思われます。

これ、さらっと書いてみましたが、仮に日本の事例で考えると、パナソニックのビエラリンク向けリモコンでSONYのPS3を使えるようにした、という感じで、あまり想像がつきません。
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また、この写真にあるように、この展示室には、Appleは勿論、Nokia, Motorola, Samsung, IBM, RIM(ブラックベリーの会社), そして、日本からはSONYの商品も飾られていて、恐らくはMicrosoftの事例で語られたようなパートナーシップ戦略を、この並んでいる各社に対してしてきたのだと思います。実際には単に商品が並んでいるだけで詳しい説明はありませんしたが、これだけ圧倒的な企業群がCiscoに協力している、という事実を見せ付けられただけでも、もはやCiscoには勝てねえ、という印象を持たせるに十分な、物凄く効果的なプレゼン手法だと思いました。

そして、このMicrosoftとのパートナーシップの説明の中で一番印象的だったのは、"Ciscoが業界標準になっている"あるいは"Cisco製品が一番素晴らしい"、といった自社を競合より高く評価する話が一度もなかったことです。代わりに、見えた態度は、上述の通り、「競合の方が素晴らしいので、そこに乗っかって一緒にサービスを広げる、これを、愚直に繰り返した」、ということです。Ciscoは「業界標準の独占企業」に見られがちなのですが、このプレゼンを聞く限りにおいては、初めから業界標準を狙って行った、というよりは、個別に良いものを一つ一つ積み上げて開発するなりM&Aで買収するなりしていくうちに、自然とCiscoが使われる確率が高くなっていった、というとてもボトムアップなやり方に見えるのです。

もちろん、Qualcommのように、外から見る限り、初めからトップダウンで業界標準を狙うことありきで、政治力、特許など、あらゆる武器をかき集めて行使し続けるような企業もあります。が、一方で、Ciscoのように、業界標準の構築は目標ではなく単なる結果、というアプローチも、特にインターネットのように政治や規制があまり通用しない、かつ勝者が全て持っていく世界では、ありなんだろうな、と改めて実感したわけです。



この(1)(2)から思ったこと:
この日本の失われた20年といわれている間、まさに1984年に誕生したCiscoが今に至るまで着々と達成してきたことは、技術的には日本人が大半を達成してもおかしくなかったもののような気がします。それでは、Ciscoにできて何故日本人にできなかったのか。想像するに、その場で下記4点くらいはすぐに思い浮かびました
- 競合企業の商品を認めることはない。全て自社製品で揃えてもらうことをよしとして、競合のお陰で市場が立ち上がれば横並びで似た商品を改良して揃える
- 結果、"Good Enough"を通り越して、スペック上の最高値をはじき出す競争を、日本企業同士で追求
- 顧客が企業に求めるものも、100%の品質。例えば携帯なら、100%の3G国土カバー率。そんな国は他にはなく、それに慣れてしまうととても海外に持っていけない
- 日本国内に利益を誘導するために、政府主導で業界標準を作ることを試みる。しかし、その規格は海外では通用せず、さらにそれが足かせとなり国際標準への参画が遅れがちになる

こう考えるに、「もはや国内に閉じこもって競争して作りこむのではなく、地球のどこかで誰かが欲しているもの(多くは既存技術の代替か並存)を、なりふり構わず達成すること。それだけなんだけど、それがきちんと出来ているCiscoはやはり特別な会社なんだなあ」、と改めて思い、完全に敗北感たっぷりの企業訪問でした。



では、(私の頭の中で)、日本は敗北しっぱなしなのか:
 そんなこともない気がします。下記3つ、理由を書いてみます。まず、このCiscoに関連する話として、日本にいた頃、よく、「日本人は業界標準の構築が下手、あるいは、業界標準となれる強い製品をもう生み出せなくなっているから、海外でもものが売れず、利益率が低いんだ」という議論を耳にしていました。しかし、本当に日本人は業界標準の構築が下手なのでしょうか。Blu-rayにしても、ハイブリッドカーにしても、結局良い技術を生み出して、それを広げてきた結果、業界標準となっている日本発の技術は、たくさんある気がします。また、本当に日本の技術・製品は強くなくなってしまったのでしょうか。これも、トヨタやキヤノン、任天堂のように、自社で全部やってしまえるケースは成功していることを考えると、単純に自社で全部出来ない分野が絡むと弱いだけかもしれません。その理由が、上に挙げた4点だとするならば、今からでもCiscoを見習って、「他社の強いところを借りる」、"Good Enough"へと発想の転換をやりきれれば、間に合う分野もいろいろとある気がします。こう考えれば、現在の技術力自体は地盤沈下が言われている現状でも尚"Good Enough"かもしれません。(利益率が一般に低いのは、素晴らしい商品を開発できたかどうかとは別に、独立した様々な利益低下要因があり、それらを愚直に解決しているかどうかの方が重要な気がします。)

次に、一緒に参加した友人が、一言。「確かに今回のCisco訪問は、プレゼンだけであまり技術を公開しなかったXX社の訪問よりは、全然興味深かったけど、僕にとっては、Japan Trekで見たYY社の方が、お世辞抜きに全然面白かった。Ciscoみたいに儲かる分野に特化すると、つまらない会社に見えちゃうんだよねえ。日本企業は逆に色々手を出しすぎて大変そうに見えるけど、新しいことにチャレンジしてるのがわかるから、見ててファンになるよ」。これを聴いて、本当かよ、とも思いましたが、Japan Trekをやったことによる、また新たな発見とともに、日本企業って思ったより凄いブランド力があるのかもしれない、とも思いました。

最後に、株式市場の評価です。詳しくは省略しますが、Financial Information Analysisの授業中で扱ったP/E RasioとMarket/Book Value Ratioの分析で、株式市場からみた企業への将来の期待感は、「負け犬」、「負け犬から回復途上」、「上昇中のスター」、「スターからの転落途中」の4種類に分けられます。この分析をした結果、2009年11月1日現在では、SONYは「負け犬から回復途上」、Ciscoは「スターからの転落途中」にあるのです。


(注1) この(2)で書いた話は、完璧にプレゼンを聞き取れたわけではないため、内容が事実と異なる可能性があります。もし違っていたら、ご指摘いただければ幸いです。当面、ニュアンスとしてはこのような感じだった、ということでご理解願います。
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by golden_bear | 2009-11-21 16:52 | 学校のイベント
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