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A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
by golden_bear
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Financial Reporting Conferenceを覗いてみました

本日は他の授業をサボってまで、朝7:30から夕方5時までみっちり、表題の会議に参加してきました。主催は、Berkeley Center for Financial Reporting & Management (バークレー財務報告管理研究所)。こんな研究所があるとは、まだまだ知らないことだらけです。場所は、サンフランシスコのWestin Hotel、という、大学主催の会議にしてはかなり豪華な会議室。それもそのはず、今回400人ほど集まった会場のほとんどはCPA(米国公認会計士)を持つ、ベイエリアの主要企業、監査法人、会計コンサルタントの方々だったからです。西海岸にもかかわらず、みなビシッとスーツを着ています。
Financial Reporting Conferenceを覗いてみました_c0174160_11404443.jpg
と思ったら、ジーンズやらポロシャツの人も十数人混じってます。彼らは皆、GoogleかAppleで会計担当をしている方でした。こんなところに、シリコンバレー企業のアイデンティティが垣間見れます。

なぜこんな会議に参加したかったか、というと、下記の理由です。
- 当然ながら、多くの議題がIFRS(国際財務報告基準)やFASB(米国財務会計基準審議会)などの現状や将来を扱う。今後あるいは今既に日本で大きな問題になっているこれらの概念に対して、世界の最先端で何が起きているか見てみたかった
- そもそも今までの人生の中で、プロの会計士同士が仕事の議論をしている場に触れる機会など全く無く、会計士とはどんな生き物なのか、肌身に感じてみたかった
- 普段興味ない知らない領域の議論に飛び込むことで、英語力の向上

丸一日びっしりのプログラムの中から、時系列に面白いと思ったポイントだけ、下に書き並べてみます。なお、門外漢による英語での聞き取りを基にしているため、内容がおかしいところあるかもしれませんが、どうぞコメントでご指摘お願いします。

7:30-8:00 朝食ビュッフェ。$15くらいは元を取ったと思う。
Financial Reporting Conferenceを覗いてみました_c0174160_11415671.jpg
8:00-8:30 Haas学長Rich Lyonsの挨拶。まず、Donald J. Kirk氏とGeorge J. Staubus氏の両名にUC Berkeleyから賞を授与、功績をたたえる。次にHaasからノーベル賞が出たこと、Economist誌のランキングでHaasが全米1位になったことを紹介。そして、彼の方針を演説。

演説の中で面白いと感じたのは、Haas3つの柱を"Confidence Without Attitude"(態度に出さない自信を培え),"Question Status Quo"(現状を疑え), "Beyond Yourself"(己を克服せよ)と定めたこと。昔からHaasは"Leading Through Innovation"を第1に、"Confidence Without Attitude"を第2の2本柱でしたが、このDeanは昨年の就任以来校風の定義を変えようとしてきて、ついに公にした感じです。受験生の方は、エッセイの参考になるかもしれません。

8:30-9:30 Keynote Speech "Current Challange in International Financial Reporting Standards"
IFRSを実際に制定している、IASB(国際会計基準審議会)のインド代表、Prabhakar Kalavacherla氏による講演。冗談が入りまくりの中で少しだけ本音を交える、というインド人独特のプレゼンスタイルで、ずっと面白いながらも、なんじゃこりゃ、という裏話(オフレコなので書けません)が聞けました。
印象に残ったポイントは、
- 会計基準の統一の話は、本来国の政治とは無関係に行わなければならないが、とても「政治的に」話し合われている。正しい方向に少しずつ向かっているが、話があまりに大きすぎて、そのスピードは北極大陸の氷河を動かしているようなものだ。
- 現在の主要4議題のうちの1つに、「国際為替レートの統一」がある。報告書上の為替レートを世界中で統一することだが、まだ採用していない国は、主要100カ国程度のうち、北半球では米国、インド、パキスタン、インドネシア、日本の5カ国程度。米国とインドが採用しない理由は、「文化的に一日中議論をするのが好きな民族だから」と思われる

ちなみに、オフレコの話をする最中には、こんなプレゼン画面が表示されてました。
Financial Reporting Conferenceを覗いてみました_c0174160_11431419.jpg
9:45-11:00 IASB Panel
大学教授、会計監査、SEC(米国証券取引委員会)、IASB、FASBの5団体の方々による、現在のIASBについての状況や問題点のパネルディスカッション。印象に残ったポイントは、
- 5人ともIASBに移行するメリット(世界中の投資がしやすくなり、流動性が高まる、など)がわかっていても、問題点(例:米国基準にすら準拠できないミスが多数あるのに、その問題が輸出されてしまう、など)も認識。安全側を取ると、全体の動きが遅くならざるを得ない
- 会計基準の採用に対し、Conversion(変換する)のが良いか、Adaption(丸ごと適用する)のが良いか、は、ほとんど神学論争の世界。少なくともConversionにはしないといけないのだが、却って面倒なので、より大変なAdaptionをいきなりやるべき部分もあり
- 今後の会計基準は「ルールによる(厳密な)定義」ではなく、「原則による(やや曖昧な)定義」に移行していく

 うーむ。最後の点に関しては、「原則による定義」に移行しないと、現実的に議論が全く先に進まないのはわかるけど、そんな定義の仕方で国際統一基準を作る意味があるのかどうか、、、。前職で、全世界の拠点の指標を統一する、というプロジェクトに関わった時に、指標を統一する管理者側のメリットと、現場側のモチベーション低下やコスト上のデメリットで、相当揉めた経験を思い出しました。昔の日本人が尺とか貫とか使っていたのに、SI単位系に切り替えたのは、本当によくやったなあ、と思います。

一通り議論を聞いて、長い時間をかけてでも、全世界での統一基準はきちんと構築されることが望ましいと思いました。統一基準ができれば地球規模で人類全体のコストが下がる、という意見は、その通りだと思いますし、そのような基準がないと今話題の排出権取引の標準化など進みようがない。少なくとも、全世界でプラグが物理的に違う電力の世界などと違って、お金をどう数えるか、というルールの問題だけなのですから、頑張って人類を前進させて欲しいものです。

11:00-12:30 FASB Panel
今度は、米国内の会計基準について、FASBやAICPA(会計士の団体)は勿論、IASBや民間企業の財務責任者も含めて議論。主な論点は、
- せっかく米国独自に進化させてきたきた会計基準(例:在庫の後入れ先出し法(LIFO))が、IASBでは使えなくなってしまうので、その際企業の業績には大きな変化(主に損失)があるはず。
- また、リース問題や、売上認識の問題などは、FASB内にて業界毎に問題を抱えてたまま。特に数千社の中小企業に関しては、IASB移行の前にやるべき課題がたくさんある。

12:30-13:30 円卓テーブルでランチ&ネットワーキング。様々なメールや電話の処理に終われ、急いで食べる羽目に。写真は取れませんでした。それでも、食事は美味く、$35くらい分の元は取れたか。

13:30-15:15 SEC/PCAOB PANEL
同様にSEC関連の5-6人がプレゼン。個人的に面白かったのは、下記2点。
- 金融危機後の規制をSECがどうかけるか、マスコミや政治家は過熱気味に期待して報道するが、SECの裁量で解決できる問題はほんの一部。金融機関側のモラルや立法側の問題が同時に動かないと、SECが厳しくしても、(金融以外も含む)全企業の不利益になるだけで、問題は解決しない。
- XBRLという、財務情報が作成・流通・再利用できるように標準化されたXMLベースの言語が、今どのように運用されていて、今後どうなるのか、を結構まじめに話していた。今年度は財務諸表のみ、来年度は注釈部分も含めて、数千社が適用する予定。うち千社以上は、SECが頼むまでも無く、XBRLを自発的にどんどん適用しているところがある

XBRLという話は知りませんでしたが、自分から採用している企業は、技術に強いことのアピールや、システムの受注を狙っているのでしょうか。

15:30-17:00 Special Topics: Addressing the Challanges of Financial Statement Disclosures
今まで数時間の議論を一気にひっくり返してしまうような、現場の声、声、声、という感じ。企業の財務責任者を中心に、財務情報開示の問題を議論していました。日本でも、数年前に四半期決算が導入された時に、「3ヶ月に1度も報告書を提出するなんて、大企業しか対応できない」ということでとても話題になったのですが、それは米国でも同様。CFOによって感じ方は様々で、「徹底的に開示しまくって、資金調達を実際にしやすくした」良い事例を話す方もいれば、「そもそも何故IFRSにしなければならないんだ」、「XBRLなんて、現場で言われているメリットなど微塵も無い」という怒りに近い意見まで、様々に飛び交っていました。IFRSのインプリの大変さを実感。


全体を通しての感想としては、このIFRSは米国が言いだしっぺなのに、結局自国自身で拒否している点が多く、「国際協調がとても苦手な米国」の姿を改めて実感しています。西海岸にいると、留学生や移民の多さ、及び、国籍に囚われない人材活用やデファクト・スタンダードの構築が上手な企業群が、世界を相手に成功を収めている姿ばかりが目に付くため、米国は国際協調がとても得意な国のように思えていました。しかし、未だに度量衡の国際基準が通用しないことをはじめ、国際協力プロジェクトでは、恐らく内部に独自の優秀なシステムを持った反対者が大声を上げるために、よく足並みを乱すのではないか、ということを、今回の会議で、肌で感じました。

そして、1日座っていたら、誰か知り合いに会えるかな、と思ったのですが、Haasからは教授やポスドク、Ph.D学生ばかりで、MBAの同期で参加したのは私だけでした。想像するに、仮に私も日本のMBAにいて、「財務報告書に関する年次会議」という名称の会議を所属大学が行い、かつ学割でも5千円(一般は4万円)取られる、だったら、多分行かなかっただろう、と思います。わざわざ海外に来たことによる「おのぼりさん」効果のお陰で、この会議に出れた。さらに、全然知らなかった時事問題を、会場の人々独特の顔つきやしぐさ、しゃべり方を実感しながら学べたと思うと、海外にてMBAを取得する意味の1つを再認識できました。
by golden_bear | 2009-11-06 22:38 | 学校のイベント
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