A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
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巨匠ピアニスト アルフレッド・ブレンデル(Alfred Brendel)氏の講演会

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今週は後半から体調が悪く、ハロウィン・パーティーはじめ幾つかのイベントをキャンセルして家で静養していたのですが、1つだけ、参加した催し物があります。それが、このアルフレッド・ブレンデル氏の講演会になります。何気なく回ってきたメールを見て、妻が「これは絶対に見に行かなければならない」、と言っていたイベントでもあり、満を持して見て来ました。

ブレンデル、といえば、バッハからシェーンベルクに至るまでドイツ・オーストリアの作曲家を得意とする、いわゆる正統派の巨匠ピアニスト。シューベルトやモーツアルトの全曲録音や、リストの演奏にも定評があるそうですが、なんと言っても彼がベートーベン演奏で打ち立てた金字塔とその名声は、他の誰にも真似ができないものと思います。1960年代に世界で初めてベートーベンのピアノ曲全曲を録音し、特にピアノにおける新約聖書に喩えられるベートーベンの32のピアノ・ソナタに関しては、1995年に至るまで全曲録音を3回もしているのです。今年78歳になる氏は、昨年12月にピアニストの演奏家としては引退を宣言。現在はボストンを拠点とし、New England Conservatory of Musicおよびジュリアード音楽院で指導者となられている他、作家としても本や詩集を残しているそうです。

今回の講演会の題名は、"On Character in Music (音楽の中の性格について)"。最初に「演奏家の仕事は、人が小説を読んだ時に頭に思い浮かべるような情景や感情と同じものを、音楽の譜面から取り出して聴衆に伝えることだ」と定義。その後1時間半弱の間、ベートーベンの32のピアノソナタから様々なモチーフ(数秒~数十秒の旋律)を取り出し、ブレンデル自身が「ベートーベンが伝えようとしているもの」をどう解釈しているか説明しながら、隣にあるピアノで実際に演奏して聴かせる、ということを繰り返す、という形を取っていました。

最初は、ピアノソナタ1番や、29番「ハンマークラヴィア」といった、いかにもソナタ、という曲を題材に、ベートーベン自身、つまり作曲者側の構成の工夫について語ることが多かったのですが、次第に17番「テンペスト」や15番「田園」、21番「ワルトシュタイン」といった中期の印象的な曲を取り出し始めると、もはや論理的には絶対に思いつかない「本当にそうなの?」と思うブレンデル独自の解釈に力が入り始めました。この時に、まるでグレン・グールドのように歌いながら披露したモチーフの数々は、時にブレンデルらしく感情を抑えたものであり、時に講演会であることを忘れてそのまま演奏し続けちゃうんじゃないか、と思うくらいのめりこんでいたものもありました。流石に引退後でもあり、音やリズムは一杯外れていましたが、それが全然気にならない素晴らしい音や旋律。「なるほど、こう解釈しているからこういう演奏になるのか」と、頷かざるを得ない、素晴らしく説得力のある「スピーチ」でした。


こう書いては見たものの、恐らく興味のない人にとっては、耐え難いつまらない講演会だったのではないか、と感じています。私自身にとってブレンデルは、私が高校3年生の時、なけなしのお金をはたいて3回目のベートーベンピアノソナタ全集を買ったくらい、個人的にとても思い入れのあるピアニストだったので、講演を聞くだけでもとても楽しめました。妻にとっても8年前に生で演奏を聴いた時に、涙が出るほど感動した名演奏だったそうです。しかし、聴衆の中には途中で帰ってしまう人もいましたし、最後、アンコールで何か1楽章でも演奏してくれるかな、と皆が期待して拍手をしていたのですが、結局演奏は行わず、聴衆から落胆の声が漏れていました。
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にもかかわらず、この日会場は1,000人近い超満員で、多くの観客からは絶え間ない拍手が送られました。これを見て、高々人口10万人のバークレーという町や、UC Berkeleyという大学が担う、文化力の高さを思い知った気がしています。また、今回のツアーでブレンデルは、イエール大学や、オレンジカウンティ、プリンストン大学、ワシントンDCを訪問するそうです。ここバークレーはじめあまり大都市が入っていないことから、アメリカのまた違った奥深い面を感じました。


もう1つの偶然として、本日は私がかつて所属していたピアノサークルの発足35周年記念パーティーが東京で開かれていた日でありました。このパーティーの会誌に寄稿を頼まれたため、以前このブログで書いたとおり、「バークレーは環境が素晴らしすぎて、今まで気晴らしに続けてきたピアノを弾くモチベーションが、12年ぶりに全く無くなってしまった」、という内容の文章を投稿しました。その文章が公にされた日に、このようにブレンデルの演奏を生で聴き、またピアノの素晴らしさを思い出したのは、とても面白い偶然です。もちろんブレンデルを生で聴いてしまうと、もはや自分でベートーベンを弾く気には全くなれないのですが、何らかの機会を生かして、何らかの形でピアノ演奏も復活させたい、と思うきっかけにはなりました。

講演会が終わり、大学のキャンパスを歩くと、ハロウィンの格好をした人々を多数目撃しました。サマータイムも終わり、もうすっかり秋になった感じです。
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by golden_bear | 2009-10-31 22:20 | 趣味・生活
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