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A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
by golden_bear
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今の株価の拠り所は何か: M&Aの授業中間感想

今学期6コマ取っている授業のうち、ダントツに重いプレッシャーがかかっているのは、M&A Practical Primer。全10回のうち、6回が終わった現時点での感想を書いてみます。
・ 「学生の授業1コマとは思えない大変さ」
・ 「だからこそ、身に付くものが多い」
・ 「身につけてみると、世の中不思議なことだらけ?」

・ 「学生の授業1コマとは思えない大変さ」
まずとにもかくにも大変。何が大変か、というと、

- 予習の量: 
毎回の授業で10問程度の質問に答えるために、合計150ページ位の資料が送られてくる。それぞれの質問自体は、「買収協定における7つの条件は何か、それぞれの目的を述べよ」、「パックマン・ディフェンスとは何か、過去のXXの事例ではどのように当てはめられたか」、という、M&Aの用語・概念・事例を、各回毎のテーマ(法務と会計、買収プロセス、敵対的買収対策、など)に沿って問う。その問い自体に答えを出すには、教科書数ページ+事例の新聞数ページを読んでおけば何とかなるが、実際に当てられると矢継ぎ早に「そもそも何でそんなのが必要なのか」、「それがもし効果ないとするとどういう場合か」、など、数問続けて突っ込んだ質問をされるので、準備しておかないと気が抜けない。

- 参加者の質の高さ: 
で、周りを見渡すと、これらの連続質問にみんなガンガン答えている。よく見ると、多くがファイナンスのバックグラウンド有、無くてもファイナンスへの転職を考えている人たち、あるいはコンサルタント出身など質問の応酬に慣れたやる気のある人達ばかりです。

- 課題の質: 
これら毎回の予習に加えて、10週間で計4回、課題提出。第1回目のみ個人課題で、内容は「DCF法とPro Forma法でディールの企業価値を算定せよ」。補足資料は大量に配られるが説明はなしで、もし提出できなかった場合受講資格なし。つまり、「投資銀行やプライベート・エクイティのアナリスト程度の仕事は、自力で出来るようになってから受講しに来い」という位置づけの授業と実感。2-4回目の課題は、チームでやることになっており、定量分析はできてることを大前提に、CEOにどういうプレゼンをするかを評価として問われる(後述)。

- 規律の高さ: 
上記のハードルの高さに加えて、全てが厳格。例えば、月曜日6時に課題提出、と言われて、仮に1分遅れた場合、普通の授業なら許してもらえるか、少なくともその課題のみ0点になれば済むが、この授業の場合は1回でもそういうミスを犯した瞬間に即「不可」。したがって、ミスを犯さないことはもちろん、何らかの事情で授業を欠席しなければならない場合など、それを権利として勝ち取るには、本当にビジネス並みの交渉を強いられる


・ 「だからこそ、身に付くものが多い」

これだけ要求事項の多いハードな授業を展開できる教授や周りの受講者に混じることで、身に付くことが多数あります。

- 教授の独特の視点:
教授のPeter Goodson氏は、20歳で起業し事業を高値で売却、この経験を持ってある投資銀行に入り、27歳でM&A部門を設立し、800件以上のM&Aアドバイザーになった後、Clayton & Dubilier, Inc.というプライベート・エクイティーのパートナーを務め、Lexmark(元IBMのプリンター部門)を買収しHPに売却するまでのターンアラウンドなどを実施。引退するまで40年もの間、投資銀行からプライベート・エクイティへと、投資・M&Aに関する売る側、買う側双方の酸いも甘いも知り尽くした方です。下記のような言葉1つ1つに、独特の価値観を感じられます。
-- 「シナジーという言葉は、Four Letter Word。使ってはならない。そんな概念は、この世に存在しない。あるのは、Operational Improvementのみだ」
-- 「投資銀行という産業の価値は、数年後にはコンピューターの自動計算で全て置き換わってしまうだろう」
-- 「雇う側の立場でM&Aに必要なのは、数値結果と人間として信頼に足る人。したがって、あなた方がM&Aを学ぶ、ということは、マッキンゼーがやっているような大局的に物事を捉えて的確にコミュニケーションする能力を学ぶことにほかならない」

- 現実に即した課題: 
第1回の課題で、定量分析の仕方を無理やり身につけさせられて以降、第2回ではある20年ほど前のハーバードケースを元に、企業価値算定を行ったあと、10ページの定型(ページごとに書く内容だけ割り当てられる、中身は自由)プレゼンテーションを作成。このケースの時点で、既に1回他社による買収が失敗してホワイトナイトが現れている、という状況でスタートし、自社、競合、ホワイトナイト、買収先の現オーナー、グリーンメーラー、一般株主の6者の利害をどう解決するか、戦略、価格決定、交渉術全てが要求されるものでした。これをチームで議論しながらやることで、実際のM&Aの現場で何が起きているか、とても臨場感を持って学ぶことが出来ます。

- チームワークによる自分を省みる機会: 
そのチームですが、今回は3人組。私に加えて、下記の2人です。
A. 欧州の国際機関で発展途上国投資案件のコンサルタントだったアメリカ人(アメリカには人生のうち5年しかいないらしい)
B. ITシステム・アウトソーシングの会社を米国で起業した中国人(学士まで北京で、修士へ留学後はずっと米国滞在)

最初のチーム活動では、母国語が英語かつ唯一の金融経験を持つAさんに頼り切りになるかと思いきや、Aさんが忙しくてなかなか出来ない、とのことで、Bさんが定量分析、私が定量以外の戦略などを担当して、最後に3人で纏めることに。すると、BさんとAさんが数値の議論で衝突しまくって、私は知識も無いことから外からただ呆然と見守るのみ。全体を通しても、結局私に作れそうなのが10枚中2枚しかなく、全然チームに貢献できずにあせっていました。

ここで唯一役に立ったのは、やはり前職のスキル。私が作り上げAさんに手直ししてもらった「Executive Summary(要旨)」のページが、そのページに関しては全チーム中一番素晴らしい出来だったと判断されたらしく、全体の前で事例として紹介され、議論されたことです。この要旨と、私が書いたもう1枚の資料も高得点だったことから、どうにかチーム内でも信頼を勝ち取ることが出来たようです。教授がコンサル的な考えが好きだった幸運、私のコンサルタントとしての最後のプロジェクトでExecutive Summaryを1人で書き切れるようになるために、何度もフィードバックをくれた上司2人、同僚2人に、大変感謝すると共に、自分の強み・弱みが何か、再認識できました。

そして、第3回の課題では、私が一杯一杯になってしまったので、代わりにAさんが定量分析を先に全てやり切ることに。その結果に意見が欲しい、と言われて、「今回何も事前準備していない私に何が発言できるのか」、と不安になっていました。しかし、いざ議論に上ると、自分の口から、「この前提はこちらに置きなおすべきではないか」、「この結果を見ると、先にこちらから手をだすべきでは」、「この数字になるのは、何か変だ。このあたりを再チェックしたら良いのではないか」、といった風に、何故か自然に気になるところがどんどん出てきて、より良いモデル作りに大分貢献できました。こういう動きが自然に出来たことで、
-- 今まで6回の授業で叩かれまくった知識が、結構身についていること
-- 作業に入らずに、ゼロベースで一生懸命考えた方が、却って大局的な思考ができること
という、昔の自分に大きく欠けていた2つを、しかも英語で実践できた自分の成長に、驚くことができています。

- タイムリーな話題:
もう1つのこの授業の特長は、現在進行形のM&Aを題材にすることも多いことです。例えば、この前の予習問題は、丁度この記事を書いている現在、スイスの製薬会社Rocheがシリコンバレーの製薬ベンチャーGenentechを敵対的買収中なのですが、「このディールに不可欠な2要素は何か」、「これらが成功すると思うか、その理由を述べよ」、といったものが数問入っていました。これらの議論に授業の30分くらいを裂いた結果、「その価格($86)では成功しない」という結論。その翌日、実際に$93に価格がつりあがったりするのを見て驚くと共に、すぐに「いや、$93はまだ低いんじゃないか」とか自然に議論になるのが面白いです。

そして、現在取り組んでいる第3回の課題は、実は前回の記事で紹介したウェブページビュー第2位と第3位の、「M社がY社をどう買うべきか、3月12日にM社のCEOにプレゼンを行う準備をしろ」、というもの。ここ数年間の山のようなM社とY社の資料と格闘しながら、先週発表された2008年度最終決算報告の数値、毎日本日の株価を照らし合わせてプレゼン資料を作っていくことは、まさに実際のディールを行う感覚を体験できます。

・ 「身につけてみると、世の中不思議なことだらけ?」
最後になりましたが、この授業で学ぶ中で、意味がわかると、えっ、と思う事象に出くわす機会が多くなることに気付きました。例えば、今回のM社とS社の分析の為に、金融機関3社のアナリスト・レポートを取り出して読んでいたのですが、見た瞬間に下記3つの点がとても不思議で仕方ありません。

- 1つの企業の売上・コストに、3社3様の違う数値を使っている → 違う理由はWeb企業独特の売上算定法で仕方ないのかもしれないけど、そんなところで各社差別化する必要があるの?
- EV/EBITDAという、倍数の指標があるが、これらは2009年以降2008年から80%減くらいになっている。 → 2008年以前に予測されてた企業価値の前提って、いま全部ぼろぼろじゃないか。しかも、これは1社の例だけど、実態の株価はまだそこまでは減っていない、ということは、株価はまだまだ下がると考えていいのか?
- しかし、目標株価の算出には、2008年時点のEV/EBITDA数字を使っている。 → 全然つじつまが合わないように見えるんだけど、これはあまりにも実際と予測が離れすぎているからか?アナリストレポートは、顧客に株を売りたいから、そうするための都合のよいロジックを見つけてきて書いちゃってるの?

実はコンサルタント時代もよくアナリストレポートを見ていたのですが、見え方が全然違ってきた上に、「こんなもん信用していいのか?」という疑念が出てきたのも確かです。さらに、多くの機関投資家がこれらアナリストレポートを参考にして投資しているとすると、どういうロジックで今の株価が形成されているのか、さっぱり判らなくなりました。前学期に、ファイナンスの授業で

- 理論株価は、将来の配当金の総和を現在に割り戻して、株数で割ったもの
- 一方、実際の株価は、理論株価からではなく、株式市場の需要と供給の関係からきまる。理論株価はむしろ後付に近い

という概念を初めて習った時も目から鱗で新鮮でしたが、今回まさに、全く理論と実際は乖離している→理論による予測は何しても全然上手くいかない→それなのにどうにか説得力持って話すのがアドバイザリー達(投資銀行・コンサルタント)の仕事→そのアドバイザリーを信用したり疑ったりしながら、正解の無いものに判断を加えるのがCEOの仕事、という現実を改めて目の当たりに感じることが出来て、とても新鮮な気持ちです。
by golden_bear | 2009-03-07 15:20 | 学業
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