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A Golden Bearの足跡


UC Berkeley Haas School (MBA) における、2年間の学生生活の記録です。
by golden_bear
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MBA向け公共政策の特別講義最終日: 我々はどう動くか?

長かった1週間も最後の日を迎え、「経済の将来と、貴方が実際どう動くべきか」をテーマに、次の4つの講義が行われました。個人的には、自分のアクションプランに直結していることから、本日の講義が一番有意義なものと感じました。

(1) The Future of The U.S. Economy (米国経済の将来)
(2) The Role of Lobbyists and Interest Groups in the Public Policy Process (公共政策プロセス内での、ロビイストと利益団体の役割)
(3) What the 2008 Election Results Mean For You (2008大統領選結果が貴方に意味するもの)
(4) The Role of the Media in the Public Policy Process (公共政策プロセス内での、メディアの役割)

(1) The Future of The U.S. Economy (米国経済の将来)
これが今回の私の中でのベスト・スピーチでした。講演者は、The Honorable Sidney L.Jonesという方で、StanfordでPh.Dを取得後、1968年からミシガン大の教授、1974から93年まで財務省や通産省の経済政策秘書及び連邦準備理事会を2期勤め、現在は投資信託会社の理事となられています。

最初の30分は、過去27年間レポートを書き続けた立場として、今年ほどFundamentals
(基礎)が通用しない年は無かった、という導入に始まり、非常に小さな声で、過去の米国内及びロシア・アルゼンチン・アジアといった金融危機の例、事業会社の会計操作やファンドのスキャンダルなどバブル機の事件、1960年代からの国家予算と経済政策、特に社会保障と社会問題との関連など、非常に多岐に渡りしかも人の気持ちを暗くする事例を淀みなく紹介していました。一つ一つは面白い話だけど、いったいどうまとめるんだろう、と思っていた矢先、高らかな声で

「もし貴方が一生懸命働けば、子供達がより良いスタンダードの下でより良い生活ができる。これがアメリカンドリームではないのか」


そして、取り出した1枚のスライドに「経済成長の根幹」のタイトル、及び、9個の箇条書きされた項目が書かれており、

今最も重要な課題は、人口統計学(少子高齢化)。そして次に、技術開発と海外貿易/投資。この3つ以外の課題(移民、通貨政策、財政政策、エネルギー&資源価格、起業&規制緩和、金融市場)は、経済とは別にして解くべき移民問題を除けば、不安定さが大きく効果が小さいため、手を出すべきでない」

と言い切っていました。そして、下記のような主張に、サポートする理由をつけながらまとめていきました。
・ 少子高齢化に関しては、中年層が一番の課題&女性の教育水準と出生率との逆相関をどう解きほぐしていくか
・ テクノロジーに関しては、大学の研究室と企業・国の研究機関の3者がどれだけ近接して新しいものを作るか(シリコンバレーの起業モデルは、既に米国経済に貢献しており、またアジアへの貢献度がより高くなるためこれから手をつける優先度が低い)
・ 移民問題に関しては、最高レベルの人材と貧困層とを両方受け入れる体制を整えた上で貧困層を裕福にする

目から鱗だったのは、少子高齢化/世代格差の問題がこの金融危機の本質と言い切り、そこを基点に他の課題を構造化していたことです。確かに
・ 「ヘッジファンドが無理に高いROEを求める背景には、その裏に年金基金があるため」
・ 「ビッグ3の車が売れない大きな要因が、60-70年代に従業員との間に設定された年金契約」
など、米国が抱える高齢化の問題と金融危機との接点は私も耳にしていましたが、ポジションを取ってこの世代間格差を基点に、テクノロジー離れと技術流出を結びつけて「20数年間GDPを化粧し続けて問題を先送りにした」という形で全ての問題を整理するのは、なるほどと思いました。というのは、私自身前職で「2007年問題」のような世代間格差の問題が、大きく日本の製造業の技術力低下に結びついていることを肌身に実感していましし、さらにこの3つに対して対応策を構築することは、企業や市場に対する資金注入といった表面的な対策ではないため、確固たる打ち手の下に「不安定さを打ち消す」効果が出るはずと考えるからです。そして、これを一枚紙のプレゼンでやり遂げた、スピーチのスタイルそのものにも、感激しました。(後で頂いた配布資料は、30ページでできており、スピーチをサポートする数字が並べられている)

日本にとっても、少子高齢化/世代格差の問題、及び、移民の問題は取り上げられていますが、是非直近将来両方への影響が如何に大きいかを精査し、これを基点により多くの議論が生まれることを、期待したいと思いました。


(2) The Role of Lobbyists and Interest Groups in the Public Policy Process (公共政策プロセス内での、ロビイストと利益団体の役割)
Business Roundtableという、Financial Timesに"米国で最も影響力のある経営者達によるロビイ活動グループ"と称される団体において、経済政策のディレクターを務める女性による、企業の活動内容紹介が主なスピーチでした。

幾つかの学びを下記に
・ Business Roundtableには現在GE,Boeing,Walmartなど約200社のCEOが登録している。業務内容としては、定期的に企業と政治家との間に会合を開き、1つの合意点(例:XX商品の中国に対する関税の撤廃)を見出し、それについてのキャンペーンを行うこと。また、Business Roundtableでは、ロビイストが特定の政党につくことはない
・ 20年位くらい前までは、社長が良く社員と話していたため実情に詳しく、直接ロビー活動をしていた。最近は、社長よりも部長クラスの方が、課題や収益について詳しく知っているため、経営権のない部長クラスの方に直接来ていただくことが増えている
・ ロビイストが企業の情報を自分達で集めることはせず、企業の方にお願いする。一方で、ロビイストは公になっている政治の情報に関しては、誰よりも詳しくなければならない・ Googleに熟達している必要がある。オバマのチームは、何かあれば必ず、まずGoogleに情報を載せる

最後に、「ロビイ活動が上手く、成功する経営者とは、どういう経営者ですか」と尋ねてみたところ、「その産業界の専門知識に詳しいこと、その情報を適時的確に伝えること、それ以外の事をしないこと」だそうです。こう聞いて、ロビイ活動とは、2~3番手の企業が逆転を狙うために使うのは難しく、トップシェアの企業またはそもそも1社しかない業界/技術で、参入障壁を築くために使うのである、ことを理解しました。

ここで、会場が"the Rayburn House Office Building"という、D.C.に3箇所ある下院議員向けオフィスの1つに移りました。
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中には、著名議員と思われる写真が多数飾られた床屋などもあり
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宴会場のような所で、もう1つのクラスと合流し、計120名で昼食を食べ、そのまま最後2つのスピーチに移りました。
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(3) What the 2008 Election Results Mean For You (2008大統領選結果が貴方に意味するもの)

テキサス州の民主党広報部長を経て、現在は政府向け広報活動のコンサルティング会社パートナーのTony Welch氏と、共和党で1992-2000年の党首選挙に出馬したPat Buchanan氏を妹として選挙活動を支え、現在はAmerican Causeという教育団体の代表を務めるAngela Buchanan氏の2名による、ディベート形式の講演でした。

最初は、Buchanan氏が「オバマ大統領はChangeと言うけど、何回でも説得して本気で変革しな限り、各論反対で終わって何も変わらない。現在の公約内容では経済対策に全くなっていないので、金は使うなら使うで厳しく細かく内容をつめないと、11日後(20日の就任スピーチ)で『期待はずれだ』とボロクソに書かれるのが目に見えてるよ!!!」と、こっぴどく批判すると、Welch氏が「オバマ大統領の役割は、自分で新しいアイデアを出すことではなく、皆に新しいやり方を考えさせること。政治的にとても賢く、国民や議会、与野党間を緊張させない彼の下で、時間をかけて継続的に変化を起こすやり方には、皆理解を示すと思う。一方、強い反戦家なので、最初の関門は中東情勢対応になる」と応酬。ここから、学生の質問に対しての質疑応答になりました。

過去の政局の話などを引き合いに出され、あまり理解できなかったのですが、判った範囲での学びは下記
・ 「現在の2大政党は似通ってしまったために、3つ目の政党は望ましい。問題は、強力な成功する代表候補が出てくるかどうか」(両者)
・ 「政策は勉強できるが、政治をするには天性のタレントが必要。この意味で、サラ・ペイリンに今回足りなかったものは、ガッツ。今回名前を売ったこともあり、今後政策を勉強すれば、将来また有力幹部候補になりうる」(Buchanan氏)→「ペイリン氏の敗因は、側近の評価の低さが周りに漏れたことだ」(Welch氏)
・ 「ブッシュ以後共和党に求められるリーダーは、移民政策を取りまとめられる人。(現在は州ごとに揉めているが)『自分達の合衆国だから自分達で決める』と言い切れるリーダーが良い」(Buchanan氏)
・ 「対外政策に関しては、オバマ大統領ではなく、詳しいバイデン副大統領がリードするのではないか。経済政策に関しては、まだわからない要素が多く難しいが、最初は例えば一律3割減税など強めに出て、最後に調整する形を目指すのではないか」(Welch氏)

特にあたかも田中真紀子議員のようにまくし立ててしゃべるBuchanan氏に驚きましたが、Welch氏含めても、さすがに2大政党で広報コンサルタントをやる以上は、弁舌軽やかに表情豊かにしゃべれる人達だ、と実感しました。

(4) The Role of the Media in the Public Policy Process (公共政策プロセス内での、メディアの役割)

最後を飾るのは、米国で初めてのメジャーな経済ブログ記者といわれているらしい、Megan McArdleさん本人によるスピーチでした。英文学部を卒業後、2年間Wall Streetで投資銀行員として働いた直後に9/11テロに直面。2001年より在籍したシカゴ大のMBA在籍中に、フリーランスのジャーナリストとして活動を開始。「その頃から、世の中の経済誌がミスだらけ/バイアスだらけであることが気になっていたが、卒業後にEconomistに就職し、経済ジャーナリストが基本的なバランスシートの読み方すら知らない人達ばかり。これは、記者の仕事の中では経済関係は人気がなく、若手に丸投げにされるが、その若手は複数の記事を掛け持ちするため、後回しになり、分析に集中できずに締め切りに無理やり間に合わせる、などの構造的原因。個人的には、2004-5年に住宅ローン危機の兆候をブログの方には分析して載せていた」、といった話を淡々と続けていました。主な学びとして、下記です。特に最初の点など、何か分析する際に普遍的に役に立つ考え方だと思いました。

・ リポーターの仕事とは、情報を集め、バイアスを確認し、「何か違和感があるな?そして、違ってたらすごいことになるのでは?」と気付いたものに対して自分自身で情報を取りに行き、自分なりの新しいフレームワークを与えて発表することである。
 - 記事にバイアスがあるかどうかを見破るには、いくつ異なるソースがあるかを把握すること。記者も互いの記事を見合って内容を確認しているため、一見異なる記事でもソースは1つのこともある。複数あれば信憑性が高い
 - バイアスや違和感を感じた時点で、そのファクトはファクトではなくなる。従って、そこに自分で確認すると、新しいファクトを付け加えられる
・ ブログなどのニューメディアと、テレビや雑誌などの旧来型のメディアとの違いは、大きく3つ
 - スペースとコスト:ニューメディアでは気にしないが、旧来型メディアはまずありき。このため、記者を見て話しているわけではないホワイトハウスの方からは、『何行の記事が欲しいんだ』と聞かれて、『じゃあこの情報だ』といったやり取りとなる
 - 時間:ニューメディア側はできた時に流せるが、旧来型は数ヶ月貯めてしまうことも多い
 - バイアス:ポッドキャストやブログでは、例えば海外に対しても記事を配信することが可能(注:広告主からのバイアスを話しているわけではない; 記者レベルでは完全に隔離されているため受けない、とのこと)
・ オバマ大統領に対しては、プレスはマケイン氏だった場合に比べてはあまりプレッシャーをかけないだろう。それは、人々がオバマのことを好きだから。ただし、経済が今後どうなるか、また、"1932年の大恐慌以来だ"(実際には1930年)という間違いの発言が結構あり、これらが酷くなると、プレスの攻撃にあう可能性がある
・ もし、オバマ大統領に質問するとすると、「1.2兆ドルの財源をどこから持ってくるか。海外からなら、中国からなのかインドからなのか。そうでないなら、どうやってインフレを防ぐか」という質問になるだろう


このようにたった1週間のWashington Campusでしたが、政治家、官僚、秘書、アナリスト、ロビイスト、コンサルタント、記者など、それぞれ異なる立場の一流の方々が「オバマ政権」、「経済危機」といった共通の課題にどう取り組んでいるか、個別には表面的でも一度に包括的・多面的に理解できた意味で、非常に密度の濃い、有難い講義でした。それにしても、このWashington Campusは今年で30年目を迎えるらしく、そんなに古くから若手ビジネスマンに政治への関わりを啓蒙する正式な場があることに、驚きます。ここで得た学びを今後どう生かせるか自分でも楽しみになる、お勧めのコースです。


(追記) 今後持ち帰って取り組むグループプロジェクトのテーマは、以前このブログ「MIT Sloan 遊学記」でも取り上げていた"Better Place"社に無事決定しました。たまたまSAP時代にCEOのShai Agassi氏の下で働いていた、という同期と、実効性のある政府との協調シナリオが作れるかどうか、頑張ってみます。
by golden_bear | 2009-01-09 23:44 | Washington Campus
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